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第3話

「えー、家に帰ったり、バイトだったり、色々あって、もうすぐ2月ですが、これから2022年度23 Futures・新年会を始めます」  明るめの茶髪にいつもカーディガンとシャツ、スラックスを着ている眼鏡の男・五島が乾杯の音頭をとる。  九岡に六川、それに、暗めの金髪にいつもかっこいい系の作業服を着ている男・三浦が各々、好きな飲みものをグラスに入れて乾杯する。  ちなみに、ここでも、三浦と五島は違う銘柄のビールを注いでいて、いかに自分が愛飲するビールの方が素晴らしいかを力説している。 「本当に平和だね」  六川は三浦と五島の言い合いに対して朗らかに笑うと、ビール……ではなく、ジンジャーエールを飲みながら、彼らを見つめる。 「ああ、そうだな……あ、ロクが良ければ、適当に鍋、つけようか? そっからだとつけにくくない?」  少し九岡寄りに置かれたコンロ。それに、袖が広がったチュニックシャツを着ている六川。九岡からすると、明らかに鍋を器に取るのは難しそうだった。 「ありがとう。じゃあ、頼もうかな」  六川が器を九岡に渡すと、九岡は慣れた手つきで、食材に極力、偏りがないように六川の器に盛る。 「葱は抜いておいたよ」  六川はあまり食べ物の好き嫌いがない男だが、葱は例外的に苦手なようだった。  まだシェアハウスに越してきて間もない頃に九岡が長葱と油揚げの入った味噌汁を振る舞ったら六川はなかなか箸をつけなかった。「味噌汁、ダメだった?」と聞いてみると、そういうことらしい。 『まぁ、僕も茄子とか西瓜とか苦手なものくらいあるし、気にしないで。あ、これ、揚げだけ入ってるヤツ。これならいけそう?』 「うん、ありがとう」  六川はその時も言ったであろう言葉を九岡に言い、九岡から器を受け取る。  六川、三浦、五島、それに九岡は最後の最後まで鍋を堪能すると、コタツの上の鍋やコンロを片づけた。

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