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第2話

『金賞 平静(へいぜい)大学附属高等学校 六川虹ノ介(こうのすけ)  銀賞 黄麦(おうむぎ)学園 九岡透哉(とうや)……』  九岡も六川も高校生だった頃、とある絵の展覧会で入賞していた。  六川の通う平静大学附属高等学校は一般的な私立高校。  一方、九岡の通う黄麦学園というのは美術系に特化した高校で、九岡は幼い頃から一流の英才教育を受けた子女に混じって絵を学んでいた。 『やっぱ、九岡に勝てんわ』 『この出来なら銀は堅い。もしかしたら、金もありえるかも知れない』  同級生も九岡の指導担当も彼の絵の出来を褒めていて、九岡自身もなかなかの出来だと思っていた。  ところが、九岡を凌ぐ作品を出してきた高校生がいた。 『六川……』  九岡はあまり自身が銀賞だとか、美術系ではない平静高校の六川が金賞だとかは思っていなかったのだが、表彰式の日になったら、自分より優れた作品を描いた六川に会えると思っていた。  だが、表彰式の会場では六川の姿はなく、代わりに受け取った受賞者リストの金賞の欄には『該当なし』となっていた。  何でも『本人が出来に納得していないのに、講師が作品を本人に無断で出した。本人がエントリーを撤回したい。出品された絵は協会側で処分するか、本人宛に送り返して欲しい』という話が九岡の耳を掠め、九岡は六川の名前で出品され、処遇をどうするか検討される絵を舞台袖で見た。  自由奔放でありながら、非常に繊細なタッチで仕上げられ、躍動感のある仔馬と少年の描かれた絵。  それはただ上手いだけではない。月並みだが、何か、絵に描かれた以上の物語を見る者に魅せるような作品で、九岡は表彰式から帰ると、一切、絵を描くことを辞めた。 『(ああ、なんて馬鹿らしい……)』  六川の作品との圧倒的な差に、精進することすら馬鹿馬鹿しくなり、九岡はすぐにでも高校も中退しようかと思った。 「(まぁ、黄麦を辞めて、あと1年も勉強する気もなかったからとりあえず卒業して、推薦で受かっていた蓮田に来たら、思わず出会ってしまった訳だけど)」  推薦では学部を問わないということなので、九岡は蓮田大学の美術学部から教育学部へ進路を変えた。  ある見方をすると、九岡という人間の人生を狂わせた、と言っても、過言ではない男・六川は髪色とやや口数が少ないという以外は至って普通の男だった。  そして、ある見方をすると、六川は表彰式に現れなかった故に、九岡という人間を全く知らない男だとも言える。 「(別にロクには何も思っていない。何だったら、今は良いシェアハウス仲間の筈だ)」  筈だが、僅かながらに禍根のようなものや憧憬のようなものが残っているのだろうか。  九岡は六川に対して上手く話せない時もあった。

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