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第10話
弁当を食べて食後のコーヒーを飲み終えると、翔悟が口を開いた。
「母さんってね、オレが小さい頃父親に暴力振るわれてた時、助けようとしなかったんだよ。オレを助けたら自分がやられるから見て見ぬふりをしてて、そんな母さんが大嫌いだった。でも、義父さんは違った。小学校の帰り道でクラスメイトに待ち伏せされていじめられそうになった時、義父さんは助けてくれた。それがすごく嬉しかったんだ」
「そうだったのか……」
妻が語る事のなかった、俺と出逢う前の話。
幼い翔悟が妻を見る目に違和感を感じていた俺はその話を聞いて腑に落ちるものがあった。
「母さんがいなくなった時、義父さんが隠れて泣いてるのを見て、オレ、嫉妬したんだ。あいつなんかの為に義父さんが泣いてる、何で義父さんはあいつの事好きなの?って。それで気づいたんだ、オレは義父さんの事が好きで、自分だけのものにしたいって思ってるんだって」
「…………」
『一緒に幸せになろうね、おとうさん。約束だよ』
脳裏に、あの時の光景が浮かぶ。
泣いてる俺に差し伸べてきた小さな手。
翔悟が浮かべていたのは……笑顔だった。
「最初はこんな風に思っちゃダメなんだって思って、忘れようとしたんだ。女の子と付き合ったりセックスしたりして、普通の男になろうと思った。けど、彼女が出来たっていう話を義父さんにして、義父さんがすごく嬉しそうな顔をした時、ものすごく胸が痛くなった。やっぱりオレは義父さんが好きなんだって思い知らされた時、あのゲイビを見つけたんだ……」
翔悟の目から涙が零れる。
「義父さんが男とセックスしてるのを見て、ならオレにもチャンスあるかも、義父さんをオレだけのものに出来るかも、そう思って、あの日わざと義父さんに見えるように部屋でするようにシたんだ。そうやって義父さんとセックス出来たけど、悲しそうな顔をした義父さんを見る度にあの時と同じように胸が痛くなった……」
「翔悟……」
その涙を手で拭いながら、俺は翔悟の頭を撫でた。
「ごめんなさい、義父さん、義父さんに酷い事言ったりさせたりして傷つけて……本当にごめんなさい……」
泣きながら話す翔悟に、俺は子供の頃いじめられて俺に助けを求めてきた頃の顔が重なった。
「謝らなくていいよ、翔悟。翔悟の気持ちはよく分かったから」
翔悟の隣に移動すると、俺はその身体を抱きしめた。
「義父さん……」
「一緒に幸せになろう。俺とお前、ずっとふたりで生きていこう」
「うん……」
見つめあうとその距離が自然に近づいていく。
俺が目を閉じると、翔悟は俺に優しいキスをしてくれた……。
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