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キミの事…①
あれ?
四~五才くらいの男の子が、一人で階段を上がってきた姿を見かけて、思わず足を止めた。この三階のフロアには、専門書等が置いてあり、小さな男の子が興味を持つような物はない。
なにより、柔らかそうな唇をキュッと強く引き結んだその子の表情 が気になった。黒目がちな丸い瞳は、グッと何かを堪えているようで…
「淳 ?」
「あっ…」
煌太 のよく通る声で名前を呼ばれ、僕は後ろ髪を引かれながらも、煌太の後を追った。
――七月のある日曜日の午後。梅雨明けは近いと確信させるような強い陽射しを、ガラス窓越しに感じる。
エアコンによって心地よく調えられた自室で、スマホ片手にだらけていた僕を、母さんは容赦なく追い出した。
「家でだらけているだけなら、図書館でも行ってきたら?…電気代も、もったいないし」
こんな時の母さんには、逆らえない。僕はそそくさと家を出て、自転車にまたがる。図書館を目指すつもりだったが、なんだかちょっと悔しい。母さんの言う通りにしなくても、いいじゃないか。僕の行きたい所に行こう。
駅に着けば、ラッキーな事に十分後に出る列車がある。いつも通学のために乗る列車とは反対方向だが、二駅先で降りればこの辺りで一番大きな書店がある。目的地をそこに決めた。
久々だなぁと、ちょっとワクワクしながら駅前にあるその書店に向かった。
三階建ての建物全部が書店で、一階には絵本や雑誌、雑貨コーナーやカフェもある。二階にはマンガや小説、三階は専門書等。
普段は高校の最寄り駅の書店に行く事が多いが、以前からこの書店はお気に入りだ。広くてきれいだし、置いてある本の種類も豊富。立ち読みがOKで、書棚の間に椅子まで置いてあるのだ。
一階の雑誌コーナーで、いつも読んでいる連載マンガを立ち読みしていた。二つ目を読もうとページをめくっていたら「淳?」という、呟きのような声かけをしっかりと耳がひろった。
驚きと期待で、一瞬で鼓動が騒がしくなる。フッと小さく息を吐いてから、そちらにぎこちなく視線を向けた。
「っ!…煌太」
そこには、期待通りの人がいた。滝沢 煌太、高校の一年、二年共にクラスメイトだ。一八八センチの長身に、長い手足。日に焼けた肌は、さらに彼を精悍に見せている。黒いTシャツにジーンズというありふれた格好でも、十分に彼はカッコいい。
「ここで会うとは、思わなかったな」
僕の横に立って、薄く笑みを浮かべながら煌太は言った。それから、ここにはよく来るのかとか煌太の部活の事とかを、声を潜めながら話した。
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