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キミの事…②
僕の身体の左側は、煌太を意識し過ぎて、ちょっと温度が高くなっているようだ。学校だったら、緊張せずに話せるはずなのに。いつもと違う場所での私服の煌太は、僕にはすごい威力だ。
こんな所で休日に煌太と会うなんて、あえて大袈裟に言うと奇跡だ。僕を家から追い出してくれた母さんにまで、心の中でお礼を言った。
そろりと左横を見上げれば、バチッと煌太と目があった。涼しげな目元を柔らかに細められ、ボッ!と火照った顔を慌てて俯けた。
うっ、うわぁ~…なんでそんな風に笑うんだよ!倒れちゃうよっ!おっ、落ち着け。この微笑みに、深い意味はない!
気もそぞろに煌太と話していると、参考書や問題集の話になった。煌太は、サッカー部の先輩お勧めの参考書を、ここに見に来たそうだ。
「っ!僕も、見てみたい!」
僕は高校では部活に入っていないので、特に親しい先輩もいない。それには、とても興味がある。
そうして二人で三階に移動し、あの男の子を見かけた。
参考書の書棚の前に立っても、さっきの男の子が気になる。
…迷子、だったのかな?一緒に来た誰かと、はぐれてしまった?声、かければよかったかな。知らない人が突然声をかけても、怖がらせるだけかも。でもやっぱり……
考え込んでしまっていた僕の目の前で、大きな手がヒラヒラと動いていた。
ハッとして視線を上げれば、思っていたより間近に煌太の整った顔があった。
「っっ!!」
思わず呼吸を止めて固まった。そんな僕に、煌太は気遣うような言葉をかけてくれる。
「どうした、淳?何か気になる…」
僕の後方に目線を上げた煌太の言葉が、不意に止まる。僕もソッと振り向いてみれば、あの男の子がいた。僅かな間に、男の子の表情は変わっていた。強く引き結んでいた唇は緩み、丸い瞳はユラユラと揺れていた。
「あっ……」
あの子の所に、とりあえず行かなきゃと思い、一歩を踏み出そうとした時だった。
「淳、悪い。ちょっと行ってくる」
煌太が、大きく一歩を踏み出した。ゆっくりと、男の子に近付いていく煌太の後を着いていく。男の子と、少し離れた所で煌太は立ち止まると「こんにちは」と優しく声をかけた。潤んだ瞳で、男の子は煌太を見上げた。目線を合わせるようにしゃがんだ煌太は、ジワジワと男の子に近付く。僕も、煌太と同じようにする。
それから煌太は、男の子にいくつか質問をした。煌太の優しい声音の問いに、男の子はしっかりと答えた。やはり一緒に来たお母さんや妹と、書店の中ではぐれてしまったようだ。
「うん、よくわかった。リクトは、えらいな!」
煌太の大きな手でクシャクシャと頭を撫でられて、リクトくんは照れたように笑った。
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