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第10話
『いやね…先ほど君の姿を見かけたものだから…』
不意にそんなことを言うフミヒコ。
「え?」
『楠小児救急センターの近くを歩いていなかったかい?ユウ君と一緒に…』
「なんでそれを?」
確かに今、健次さんの病院を出たところだから…
『はは、たまたまだよ、仕事の関係であの辺を歩いていたら偶然みかけてね…犬を散歩させていたのかい、随分仲がいいみたいだね、ユウ君と…』
「それは別に…」
答えようがなくて言い詰まるが…
『ふ…少しは私にも望みがあるかと思っていたが、難しいようだね…』
「えっ…?」
『だから、私の方から手を引こうと思ってね…』
急に話しを核心へ変えるフミヒコ。
「本当に?」
急な話の展開に驚くアキラ…
問題なくケリがつくなら、その方がいいから…
『あぁ、あれだけ幸せそうな顔を見てしまってはね…ただ、』
「え…」
『もう一度だけ君に逢いたい…』
「…それは」
『一日、私のために時間をとってくれ…そうすれば私が払った一千万円を帳消しにする念書を書こう…』
そんな条件を出すフミヒコ。
「…でも、金はオレが返すから…」
うまい話には裏がありそうで…
アキラはきちんとけじめをつけたいからそう伝えるが…
『君から金を貰うことはしない、私は金が惜しいのではないからね…君が手に入らないことの方が重大だから…』
意味深に答えるフミヒコだが…
会いにいかねば、いつまでたっても縁が切れないということ…
「…一日って?」
『文字通り24時間、私の元にいてくれ…』
「…ちょっと考えさせて…また電話する」
フミヒコの言う会いたいには当然SEXも含まれているはず…
フミヒコの所に一日外泊するなどとみずきに伝えたら、絶対反対するだろうし…納得はしない…
即決は出来なくて…アキラはそう答える。
『そうだね、よい返事を待っているよ、では…』
フミヒコはあっさりと電話を切る。
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