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第1話

「八代桃司くん!ぼ、ぼ、僕と…僕と…つつつ、付き合ってください!!」 「ハァ?何言ってんの?つかお前誰?」 僕の人生史上初、一世一代の愛の告白はそんな一言で呆気なく砕け散った。 名前の通り桃のようにふっくらと美味しいそうで可憐な唇から、思いの外冷たい言葉が聞こえてきて一瞬思考が停止する。こちらへと向ける視線も心做しか先日会った時より冷たい。 さらに刺すように鋭利な眼差しで見つめられ、初めて気がついた。 もしかして僕のこと覚えてない…? 「あ、あの…僕…この前…桃司くんのこと指名した、宮間景親といいます。あの、僕と…、」 みやまかげちか、と丁寧に名乗ったが桃司は更に嫌そうに顔を歪めただけだった。 「客かよ。いちいち顔も名前も覚えてねーっつうの。」 舌打ちと共に聞こえてきたのは、やはり天使のような見目の彼には似合わないような刺々しい言葉。 「てか、何?なんで本名知ってるわけ?店の前で待ち伏せしてさ、ストーカー?キモいんだけど。警察に突き出すよ?」 「あ、あ…ち、ちょ、まって…あの…っ」 やけに大きな可愛らしいケースに収まっているスマホを取り出した桃司に、景親は焦る。 彼に想いを伝えることで精一杯で、その後の展開なんて何も考えていなかった。まさか通報されるなんて。 なんとかしてそれだけは回避しようと必死に言葉を探していると、何か思いついたのか桃司が画面から顔を上げてじいっとこちらを見つめてきた。 「…あ。お前…」 分厚い眼鏡の奥を覗き込まれて、思わず半歩後ずさる。 「お前あれだ。こないだの勃たなかった奴か。」 景親の脳内は、そこで完全に思考停止した。 何が“一世一代の愛の告白”だ。 穴があったら今すぐに飛び込みたい。

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