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18 side.r

──真っ赤な灯りがクルクルと回り、サイレンが鳴り響く。 綾木が必死に捕らえていた男は手錠をかけられ、聞き慣れたその音と共に去った。 「……お前オカマだったのかよ」 「最初にそれ?…ははは。後で教えてあげるね」 植え込みに横になったまま、ボロボロの身体でようやく綾木はよく知るいつもの笑顔になる。 「なあ…なんで、ここに居たんだよ」 「来碧さんに会いたくなっちゃって」 「…そっか。 危険な目に合わせて悪かった」 「全然平気だよ。俺の方こそ、ごめん」 「…は?」 どうして綾木が謝るんだ? そう問いかけようと目を向ければ、こちらに伸びてきた長い腕に包み込まれた。 ゲロまみれの俺を何のためらいも無く抱きしめられるこいつは、やっぱり少しおかしいんじゃないか。 落ち着いた拍子に気が抜けたようで 弱々しく涙で顔を濡らしながら、それを拭える筈の手は俺の頭を優しく撫でて。 俺のような人間を…身体を張って助けたりして……、傷だらけになって、泣いて。 おかしいよ。 お前本当、バカだよ。 「辛い思いさせてごめん。一人で苦しませてごめん。怖かったよね、遅くなってごめんね」 「そんな事──」 「でも、生きていてくれてよかった」 独りに慣れていくうちに 人前なんかで絶対に泣いてやるもんか…とか 妙な意地を張って強がっていたくせに 相手が綾木になると、どうも上手くいかない。 タガが外れたように溢れ出す涙を綾木の指に掬われながら 自分の性別を知ってから初めて、 声を出して泣いた。 「ごゎかっ……あぁ…っ、気持ちわ、ぐて…死んだほぉが……よがったッかも、て……っう、ひうぅ……っ」 綾木は、俺の日本語にもなり切れない滅茶苦茶な言葉を ずっと、ずっと頷きながら聞いてくれた。 もう大丈夫だから もう怖くないから、と どんなオルゴールよりも温かな声色で囁きながら。 二人して泣いておきながら、口角は上がるちぐはぐな表情。 拭う涙はいつだって、自分じゃなく相手のものだ。 生まれて来なければ、死んでしまえばなんて嘘だ。 出口の見えない迷宮で、もがいて、あがいて、這いつくばって、それでも生きてきたから こうして貴方に出会えた。 これまでに味わってきた苦痛が全て、いつの日か貴方と結ばれる為に課された試練だったというのなら 俺は、独りで全部受け止めて来られた自分をめいっぱい褒めてあげられる。 綾木に抱く感情は、日を追うごとに大きくなり この今だって、言葉ではとても言い尽くせない程の愛おしさが込み上げて 抱きしめた腕を離せない。 「来碧さん、一緒に帰ろう?」 「……うん」 明日は多分、上司からの説教や状況説明に追われて息をつく暇も無いだろうから せめて今日は、綾木とテレビでも見ながら横になって そのぬくもりを肌で感じられる距離で ゆっくり眠ろう。

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