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19 side.s

「うぅ…ずっとお腹気持ち悪い…」 「だろうな。殴られまくってたし…」 常に平和主義者、争い事は極力避け続けてきた俺に、αゴリラ男からの攻撃はかなりダメージが大きかったらしい。 アドレナリンに助けられ、あの場では痛みなんて感じなかった。だが、こうして帰宅してしまえばドカっと全てが押し寄せる。 正直、手や足を動かそうと力を入れるだけで痛むし、立ち上がるのも一苦労だ。 何より怖い。 …え?なんで俺あんなヤバい奴に向かっていったんだ?やばくないか?身の程知らずにも限度というものがあるぞ。 もしアイツとこの先いつか出くわすような事があれば、その時こそ俺の寿命はぱたりと終わりを迎えるんじゃないだろうか…。 考えるだけで震えてくる。 心臓は慌ただしく鼓動を繰り返しているし、例えば今ペンでも握ったものなら書き連ねる文字は90を超えたヨボヨボ爺さんにも笑われる出来だろう。 だが、来碧さんにそんな事を言えばきっと自分のせいだと責任を感じてしまうから……。 これだけは、内緒にしておこうと決めた。 その時、テレビのお笑い芸人たちの姿を隠す黒髪が顔の前を横切る。 すぐに感じるのは心地よい重み。 来碧さんの頭が俺の膝の上に乗った。 「…これも痛い?」 「ううん。そこは大丈夫」 「そっか」 短い会話の中にも見える、来碧さんが俺を心配する様子。 彼ほど細くも無いが、俺も肉付きはあまりよくない。 それに加えてソファは物置状態だ。冷たく硬いタイルの上じゃ寝心地も悪いだろうに…。 来碧さんはふぅと一つ息を吐くと、こちら側に寝返りを打ち、胡坐をかいた俺の腰に腕を回した。 「助けてくれてありがと。…お腹、また別の意味で痛くなっちまったよな。顔の傷も…痕にならないといいけど」 額を摺り寄せられた所は、何度も肘や拳を食らった部位で、今朝は貰ったカイロを張り付けていた。 痛む筈のそこは、一体どんな万能薬作用を持っているのか、来碧さんに触れられると瞬時に治癒されて行くようだ。 くすぐったくて、温かい。 おまけに俺のみに許された来碧さんの香り。 あー…やばいな。これ。 俺もまともに動ける状態じゃないし 来碧さんは嘔吐するくらい酷い拒絶反応に襲われていたんだ。 なのに、これ…こんなんじゃ……っ。 「あ、そうそう。さっきのキャラ実はね? この間会社の奴が顔色悪くして教えてくれた話なんだけど──」 咄嗟に切り出した話題。来碧さんは時折込み上げる笑いを堪えるように口を押さえながら聞いてくれた。 突然のこの話は苦しいんじゃないかと不安だったが、何とか誤魔化せたようだ。 他の事で気を紛らわしていなければ こんな状況じゃ俺の俺が主張を顕にしてしまう。 それだけは避けなければ。 少しでも反応してしまえば、流石に距離的に気付かれてしまうだろうから。

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