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第1話

幼馴染のアイツ、優に告白して、まさかのOKをもらって付き合い出してから初めてのイベント、夏祭り。 地元の小さな神社にいくつか出店が並んで、子供神輿が担がれて、打ち上げ花火も上がる。 中学まではずっと一緒にいたけど、高校は別々なとこに通ってるから、会える時間も限られている。 部活や委員会、更にはバイト等々・・・・・・休みの日だって会えるかどうか解らない。 忙しいかもしれないから電話は控えてメールばっかり、それでも返事が来るのも稀だ。 そんな中の夏祭り・・・・・・つまり、デートイベント発生! もちろん一緒に回るつもりで、俺はバイトのシフトを入れなかったのに。 「なに、拓海、あんた暇なの?」 扇風機を回した和室で仰向けに寝転がっていた俺を、実家に帰って来ていた姉ちゃんが覗き込んできた。 その腕の中で甥っ子の凌空が嬉しそうな笑顔を浮かべて、俺に向かって両手を伸ばしている。 「祭り行かないの?」 独りで出店回りなんて、しないに決まってるだろ。 そりゃぁ、声を掛ければ一緒に行こうって言ってくれるダチはいるけど、急だし、そいつらにだって予定ってものがあるわけで。 そもそも、そいつらは俺達の関係を知っていて、俺が夏祭りに優を誘おうと思ってたことを知っている。 けど、優はシレッと・・・・・・その日はバイトがあるからって断ってきたんだ。 近所なんだから、イベント事のスケジュール知ってるはずなのに。 楽しみにしてたし、まさか断られるとも思ってなかったから、結構凹んだ。 「姉ちゃんだって」 旦那さんと喧嘩したって言って帰って来た姉ちゃん。 今年保育園に行き出した凌空を連れて、しかも夜中に・・・・・・ 両親が久々の旅行へ出掛けていない、俺が一人で留守番していた日に、破壊するかの勢いで玄関の扉を叩いて、爆睡中だった俺を起こした。 俺はそのまま、姉ちゃんの話に付き合わされて・・・・・・・おかげで寝不足だ。 「ねぇ、あんた暇ならこの子のこと頼めない?」 はぁ? 凌空は母親の腕から俺の腕の中に移って来て、きゃっきゃと俺をTシャツを引っ張ってご機嫌だ。 懐いてはくれてるけど・・・・・・こいつ、俺の事下に見てると思うんだよな。 伸びるからやめようね、とその手を止めても、ぶんぶん手を振り回して俺の手を振り払い、ばちんっと俺の頬を叩いた。 いったい誰に似たんだか・・・・・・かなり凶暴で、しかも結構力が強いから痛い。 「久しぶりに友達と会ってくるからさぁ、その間見ててくれない?そうそう、祭りに連れてってやってよ」 思いつきで言い出したんじゃないことは、この後すぐに出てきた浴衣から想像がついた。 旦那と喧嘩して家を出たって嘘なんじゃねぇの、浴衣引っ張り出して来るなんて随分準備万端だな、という言葉は飲み込んだ。 かくして俺は、浴衣に着替えた凌空を連れて夏祭りが行われている神社へと足を向けたのである。 ついでに、俺も浴衣を着せられたけど・・・・・まぁ、昔から姉ちゃんには逆らえないから。

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