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第2話
ずらりと並ぶ出店。
金魚すくい、お面屋さん、輪投げに射的、綿菓子、焼きそば、かき氷・・・・・・えとせとら、エトセトラ。
凌空はキラキラと目を輝かせて、今にも涎が落ちそうだ。
使った金額はそのまんま姉ちゃんに請求してやるからな、と決意して、凌空に引っ張られるままに歩く。
「にいちゃ、だっこぉ」
最初は嬉しそうに走っていたくせに、もう疲れたのか。
両手を広げた凌空を抱き上げて、きょろっと周囲を見回し、何か食うか飲んだりしようかと、いくつか出店を覗いて回った。
子供の体温は高いから、じっとりと汗を掻いてきた。
腕の中の凌空は暑いのが気にならないみたいだけど、適度に水分を摂らせなきゃな。
凌空にお伺いを立てれば、全部食べたいと言うから・・・・・・
「俺の財布をすっからかんにする気か?」
「にぃちゃ、びんぼぉ?」
貧乏という単語には引っかかったが、普段からロクな事を教えない姉ちゃんなので、あえて否定することはしない。
「そう、だから・・・・・あ、焼きそば食おう!」
焼きそばなら買ってやろう、ありがたく思え。
余ったら俺が食えばいいから二人分、小さなペットボトルのお茶も一本買って凌空に持たせてやる。
零すから蓋は開けてやらない。
とりあえず、落ち着いて座れるところを探そうと歩き出す。
神社横の小さな公園のベンチに座って食うか・・・・・・
地元の友達と何人かすれ違って、凌空を指差してお前の子かぁって揶揄られたけど。
姉ちゃんの子だし、俺の小さい頃によく似てるって言われるし。
公園には凌空くらいの子が他にもいて、色とりどりの浴衣があちこちに散らばっていて・・・・・・
祭りで買ってもらったであろうお面を付けて光る剣を振り回す子達が砂場や滑り台を占拠し、綿菓子に顔を埋めた子達がブランコで騒いでいた。
その子達の近くで、母親らしい女の人達がおしゃべりに花を咲かせている。
我が子かもしれない子が転んでも知らんぷりだ。
誰も駆け寄らないけど・・・・・・あぁ、ほら泣き出したぞ?
アンタ達の中の誰かの子じゃないの?
「にいちゃ、いちゃいいちゃい?」
俺の腕の中の凌空が気にして、人差し指を女の子に向けて、ぺしぺしと俺の頬を叩いてくる。
近所じゃ見掛けない顔だから、俺が下手に声を掛けて誘拐だぁなんて騒がれても面倒だなぁ・・・・・・でも、ほっとけないよな。
俺も子供連れだから、大丈夫かな?
その場に座り込んだまま、わんわん泣いている赤い金魚の浴衣を着た女の子の側で膝をついて、ぽんっとその頭を撫でてやる。
「大丈夫?」
俺の腕から降ろされて、凌空は自分から女の子に話しかけることはせず、俺の腕にしがみ付いてその子を見詰めている。
掴まれた腕が痛いよ、そんなに力いっぱい掴まなくても大丈夫だろ?
ぐすんっと鼻水を啜って、女の子がきょとんっと俺を見詰めてきた。
大きな目、落っこちそうだなぁと思っていたら、俺の腕の中にぽすんっと跳び込んで来た。
「けっこんちて」
は?
きゅっと俺の浴衣を掴んで、ぽっと頬を染めた女の子は・・・・・・俺にプロポーズをしてきた。
聞き間違いでなければ、俺は今、この子に、結婚してと言われたんだよな?
「あ、あのぉ」
背後から聞こえた声に振り向けば、この子の母親・・・・・にしては若い(俺と歳変わらないんじゃないかな?)女の子が立っていて・・・・・・
口元を覆い隠して、なんか涙目になってコッチを見下ろしてるけど?
いやいや、俺はこの子に変な事をしようとしたわけじゃありませんからね!
「あ、いや、あの!転んでて・・・・・」
やっぱり怪しい人って思われたかな?
この場はとっとと離れた方がいいよな・・・・・・ってわけで、ゆっくり体の向きを変えて・・・・・・
いや、待て待て。
俺の腕の中にはまだ女の子が抱きついたままになっていて、俺の浴衣を掴んで離れない。
「すっ、すみません、すみません、ありがとうございます」
突然ぺこぺこと頭を下げられて、俺の腕の中から女の子を抱き上げようとして・・・・思ったより強い抵抗によって浴衣を引っ張られた。
「ちょっ、ちょっと、離しなさい」
「やぁもぉ」
「ダメよ、迷惑でしょ!」
「やぁ、けっこんすゆのぉ」
「結婚って、あんた自分がいくつだと思ってんのよ!」
暴れないでくれ、どんどん浴衣が乱れて・・・・・まぁ、暑いし、俺は男だからいいけど。
露出狂とは思われたくないぞ?
なぜか凌空が俺の手伝いをしてくれて、女の子の手を離そうとしてくれてる。
まるでヤキモチ妬いてるみたいだ。
「ごめんな・・・・実は俺、もう結婚相手がいるんだ」
もちろん嘘だ、そんな約束をした相手なんていない。
ニッコリ笑って女の子の頭を撫でてやれば・・・・・・じわりと大粒の涙を浮かべて、ウーウー唸り始めた。
それでもしっかり俺の浴衣を握っている。
「あぁ・・・・・じゃぁ、もしその人に俺がフラれちゃったら、その時は俺と結婚してくれるかな?」
なんて言ってみたら、効果があった。
「いいよ・・・・けっこん、ちてあげゆ」
上から目線かよ・・・・・
でもまぁ、手を離してくれたから、俺は乱れた胸元を直して、俺の腕を掴んだまま大人しく待っていた凌空を抱き上げて立ち上がった。
「じゃぁ、俺達もう行くんで」
女の子の気が変わらないうちに、脱兎のごとく公園から飛び出した。
俺は必死に走ってるのに、凌空は俺の腕の中で嬉しそうに笑い声を上げた。
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