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第3話

走って走って神社まで戻って来て、公園のベンチに焼きそばの入った袋を置いてきてしまったことに気付いた。 「にいちゃ?」 取り敢えず、鳥居の前で一旦凌空を下ろして、呼吸を整える。 凌空は俺の浴衣の裾を掴んで、俺を不思議そうに見上げている。 喉がカラカラだ。 「かき氷食おうか」 かき氷の出店に向かう途中、数々の誘惑に負ける凌空に連れられてフラフラと歩く。 水風船が流れる水槽の前で足が止まり、金魚が泳ぐ水槽の前で目をキラキラ輝かせ、戦隊物のお面の前でフリーズ。 頬を赤く染めて興奮してる。 「一個だけだぞ」 そう魔法の言葉を掛けてやれば、更に興奮してフーフーと鼻息が尋常じゃなくて・・・・・・ 戦隊物のお面って言ったら、やっぱりレッドを取るよな・・・・・・頭につけて御満悦。 しょうがねぇなぁ、コレは俺からのプレゼントってことで、姉ちゃんには請求しないでおいてやるよ。 かき氷はイチゴとレモンを買って・・・・・溶けないうちに食べようと、何処かで座れるところはないかと周囲を見回す。 ザワザワと聞こえていた雑音が、一瞬無音になった。 「え?」 親子連れや女の子同士、男同士の人混みの中に・・・・・・見付けてしまった。 だって、今日はバイトだって言っていたのに。 ココにいるはずないのに。 しかも、隣にいるのって・・・・・・誰? 俺の知らない女の子が優の隣で笑ってる。 楽しそうじゃんか・・・・・・なんだ、ソレ。 俺にバイトだって嘘ついて、その子と会ってるってどういうことだよ? 「にぃちゃ?」 どうって・・・・・・つまりはそう言う事か。 付き合ってって、玉砕覚悟で思い切って告白して、OKをくれたけど・・・・・俺が必死過ぎて同情してくれたのかな。 家は近所だし、家族付き合いもあったから、気を使ったのかな。 本当は、俺の事好きじゃなくて・・・・・・そりゃぁそうだよな、アイツ元々ノーマルだったし。 ちょっとずつ距離を空けて、自然消滅を狙ったのかな? あぁ、だから会える時間も徐々に減っていって、メールだって返事もくれなくて・・・・・・ その場にしゃがみ込んで、がっくり肩を落とした俺の足の間にしゃがみ込み、凌空が見上げてくる。 「にぃちゃ?」 ぽたっと凌空の頬に・・・・・・俺の涙が落ちちゃった。 一旦流れ出した涙は簡単には止められなくて、拭っても拭っても止まらなくて。 「にぃちゃ、イイコ、イイコ」 俺を慰めるように凌空た頭を撫でてくれる。 こんな小さい子に気を使わせるなんて・・・・・困った兄ちゃんだよなぁ、俺。 「拓海?何泣いてんの?」 突然頭上から聞き覚えのある声が降って来て、顔を上げれば、呆れ顔の優が俺を見下ろしていた。 「腹でも痛いのか?」 さっきの女の子が相変わらず隣に立っている。 的外れな事言うな、馬鹿。 なんで話しかけて来てんだよ、馬鹿。 わざわざ俺に彼女を見せに来たよかよ、馬鹿。 「あ、あの先程は」 突然女の子が優を押し退けて身を乗り出してきた。 ん?先程? 「あたちの、けっこんあいて」 くいっと浴衣の裾を引っ張られて視線を落とせば、赤い金魚の浴衣を着た女の子が、大きな目に俺を映していて・・・・・ 「拓海がフィアンセだって?いつの間に婚約してんだよ?」 「え?ちっ、違うわよ!だって!」 どうしてこの子が否定してんの? ってか、この金魚の子、どっかで見覚えが・・・・・・あ、公園の? 「この人にはもう、結婚するお相手がいるって、言ってたもの!」 ねぇ、と同意を求められる。 そ、そうだ、そんなことを言った気がする。 つまり、この子は、この金魚の子と一緒にいた子で・・・・・この子の母親? で、今この子の隣には優。 この金魚の子は・・・・・・・・優とこの子の子供? 「拓海!おい、お前の結婚相手って誰だよ?」 ぐいっと胸倉を引っ張り寄せられる。 なんか怒ってる? 「どういうことなのか説明しろ!」 説明?俺が?お前に何を? 逆だろ・・・・・お前が説明しろよ。 別れろと言うなら別れるし・・・・・・・いや、そもそも、俺達付き合ってなんかないって言うか? 俺の事なんて好きじゃないって・・・・・言うか? 男のくせに、男のお前を好きな俺は気持ち悪いって・・・・・・・・・言う、か? ぽろぽろと涙が頬を伝う。 「おい、拓海?」 いいよ、消えてやる。 お前の前から消えてやるから・・・・・この手を離せ。 なんて馬鹿力で掴んでんだよ。 「にぃちゃ!」 ぽすぽすっと凌空が優の足元を叩いている。 あまり効果はないようだけれど、俺を護ろうとしてくれてるのかな? 俺は思いっきり優の胸を押して・・・・・勢いで浴衣から手が離れた瞬間に、凌空を抱き上げて逃げ出した。

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