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第4話

背後から名前を呼ばれたけど、止まらない。 止まれるわけがない。 ずっと好きだった人との別れが、こんなものになるなんて思わなかったけど。 今まで気持ち悪い思いをさせてゴメンな。 馬鹿って言ってゴメンな。 折角彼女と二人でデート中だったのに邪魔してゴメンな。 追ってくる気配はない・・・・・・当然だ。 今頃俺の事を彼女に言い訳してるんだろ? お似合いだったよ、ふたり・・・・・・まさか、子供までいるなんて知らなかった。 学生同士での結婚だったら、いろいろ大変だったんだろうね。 俺なんかが邪魔してゴメンな・・・・・・ バタンッと自宅の扉を開けて飛び込んで・・・・・・鍵を掛けた。 あっけない終わり方。 扉に背中を預けてズルズルと座り込む。 涙はずっと流れたまま・・・・・・止まらない、止められない。 「・・・・・・・・・ははっ」 俺一生分泣いてるのかもしれない・・・・・・ この涙が止まるとき、きっと俺の中から全ての涙が枯れ果てるんだ・・・・・・ 「にぃちゃ」 俺が泣き止まないから、凌空が慰めてくれる。 自分も泣きそうになってて・・・・・・自分の浴衣の裾で一生懸命俺の涙を拭ってくれてる。 凌空をぎゅっと抱き締めた。 「にぃちゃ、いちゃいの?」 「ん、痛い」 痛いんだ、心が、すっごく痛い・・・・・・・痛いよ。 「・・・・・・・・・ふぇ」 「よちよち、いちゃいのぉいちゃいの、とんでけぇ」 俺を小さな身体できゅと抱き返してくれて、頭を撫でながら呪文を唱えてくれた。 ドヤ顔だ・・・・・・けど、俺は優しい凌空がいて幸せだな。 「ふふっ」 「いちゃいのなくなった?」 ずっと俺の頭を撫でてくれている凌空を優しく包み込んで、俺は小さく頷いた。 「もぅ・・・・・・大丈夫だよ」 そう、大丈夫・・・・・・ゆっくり、ゆっくり、忘れていこう。 優の事を忘れよう。 「ありがとうな」 笑顔を作ろう・・・・・・ 俺のことを心配してくれる凌空のために・・・・・・今だけでも。 まだ涙は止まらないけど・・・・・・ 泣き笑いな顔を凌空に向けて、笑顔同士、おでことおでこをコツンッと合わせて・・・・・・・ バンっと大きな音が鳴って、俺と凌空はその場で飛び上がった。 キッチンの方から聞こえたけど・・・・・・勝手口? え? 「姉ちゃん?」 そう言えば玄関の鍵は開いてた・・・・・・ってことは、まだ姉ちゃん家にいるんだよな? うちの勝手口は最近普通に開けられなくて、ちょっとしたコツがいる。 さっきみたいに、とある一ヶ所を叩いて・・・・・・ でも、それは、姉ちゃんが家を出てからヘソを曲げた勝手口だから、姉ちゃんがそのことを知ってるわけはない。 「姉ちゃん?」 凌空を抱き上げて、靴を脱ぐ。 俺の呼びかけに姉ちゃんからの反応はない。 凌空がきゅっと俺の首に抱きついてきた。 俺もちょっとドキドキする。

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