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第5話

「姉ちゃん?」 覗いたキッチンに姉ちゃんはいなくて・・・・・・勝手口が開いていた。 誰かがココから外へ出たのは確かなんだろうけど・・・・・・誰かって、姉ちゃんしかいないよな? え? でも、姉ちゃん友達んとこに行くって言って、俺達が祭りに行く時一緒に家を出たはずで・・・・・・ 「あ?なんだよ、ガキだけかよ?」 聞いたことのない低い声と共に、開けっ放しの勝手口から知らない男が現れて・・・・・・ ボサボサの髪に、古ぼけたTシャツから伸びる太い腕はよく陽に焼けていて、その手には・・・・・・・・・ 「おらガキ共、イイ子だから金出しな」 そいつの手には・・・・・・包丁が、ほ、ほ、包丁が握られていて・・・・・・ その切っ先が俺達に向けられて・・・・・・・・・いて・・・・・・ 「金が置いてある場所知ってんだろ?」 じゃりっと一歩近づいて来て、俺達は一歩下がって・・・・・・ 余裕な笑みを浮かべて、包丁の切っ先を上下に揺らしながら、ゆっくり近づいてくる。 逃げなきゃ・・・・・・逃げなきゃいけないって分かってるのに動けない・・・・・・ 「なぁ兄ちゃん、ガキに怪我させたくねぇだろ?おら、金持ってこいよ!」 俺の腕の中の凌空に向けて腕が伸びて来たので、庇うように身体を捻ったら・・・・・・ バキッと右頬を殴られて、くらっと視界が揺れた。 殴られた衝撃で立ってられなくて、片膝をつく。 「にぃちゃ!」 「・・・・・・・・っつぅ」 守らなきゃ・・・・・・こいつだけは、守らなきゃ! 凌空をぎゅっと抱き締めて、身体を丸めるように蹲る。 「おいおい、無駄な抵抗はやめとけ・・・・・これ以上痛い思いしたくねぇだろぉ?」 うるさい! 無駄な抵抗って言うな! 俺はどうなってもいいけど、凌空を守るために俺が出来ることって言ったら、こうやって身体を張ることしか思いつかないんだ! 「ちっ」 頭上で舌打ちが聞こえた。 包丁で刺されたら痛いよな・・・・・いや、痛いどころじゃないか。 死ぬよな、死んじゃうよな? でも、俺もう思い残すことないし・・・・・・ あぁ、明日新聞に載るかなぁ? 一面には載らないよなぁ・・・・・・きっと、地域版の隅っこの方に・・・・・・・ 「どぉうおぉぉぉっりゃあぁぁぁっ!」 バキッ!カシャン・・・・・・・ 刺される激痛に備えるため、ぎゅっと目を閉じたのに、聞こえたのは別の音。 しかも、優の叫び声が聞こえた気がした。 ひょっとして、これが死ぬ前に見ると言う走馬灯ってやつ? どうせなら声だけじゃなく、ちゃんと姿も見たかったなぁ・・・・・・あれ? 待てど暮らせど一向に次が来ない? 「拓海!」 しっかり耳に届いた優の声で名前を呼ばれてハッと目を開ける。 「拓海、怪我は!」 視界いっぱいに飛び込んできた優の顔は、今まで見たことがないくらい焦ったモノで・・・・・ 「ふっ・・・・・ふふふっ」 なんか可笑しくて、笑ってしまった。 さっきまで目の前に立っていた男は、優の背後で白目を向いて床に倒れている。 「おい?拓海?」 なんでだろう、さっき引っ込んだはずの涙がまた出てきた。 凌空を抱いていられないくらい身体中が震え始めて・・・・・・ 優に抱き締められた。 「拓海、大丈夫だ・・・・・もう、大丈夫。俺がいるから、もう大丈夫だ」 耳元で、優しい声音で何度も繰り返される。 俺は優の腕の中で、優の体温を感じて安心出来て、とにかく涙が止まるのを待った。 「警察も呼んだから・・・・・今のうちにコイツ縛っちまおう」 ぽんぽんっと背中を叩かれて、顔を上げる。 離れないでほしかったけど、優の言う通り、気絶しているうちに男を縛っちゃわないといけないから名残惜しいけど身体を離した。 荷造り紐を探して、あちこちの部屋を覗いてギョッとした。 荒らされ放題だ・・・・・・父さん達が帰って来た時の顔が目に浮かぶ。 ビックリ仰天! 楽しい旅行だっただろうに、な。

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