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中学時代の同窓会はなかなか盛り上がり、二次会のカラオケを出た頃には日付が変わる直前だった。
元々仲の良いクラスだったっていうのもあり終始和気藹々とした雰囲気で、俺も久しぶりに懐かしい面々と酒を飲めてとても楽しかった。
時間も時間だから解散、と幹事の声が喧騒の隙間から聞こえる。ほとんどの奴は別れの挨拶を交わしているが、懐かしさブーストがかかってまだまだ元気な数人は次に行く飲み屋の相談をしていた。
俺は……いや、『俺たち』は、前者だ。
「じゃーなー!」だとか「またねー!」だとか後ろからかかる友達の声に、俺は片手を挙げて返事とした。
「わはははっ、宮永 ~!飲んだか!?」
「おー。飲んだ飲んだ」
「そうかあ飲んだか~!えらいぞ!」
「はいはい、こっちな」
俺はすっかり出来上がっている目の前の男——高坂 の腕を取り、帰り道の方向に足を進めた。
線路に沿うようにある、車もすれ違えない一方通行の細い脇道。
だいぶ遅い時間なせいか通行人はほとんどいない。
土曜日の夜ということで賑わっていた駅前とは対照的に深夜らしく静かだ。
吹き抜ける涼しい夜風はアルコールで熱を持った身体を優しく和らげてくれて心地良い。
「今何時だー!」
「じゅーにじ」
「そっか!」
「高坂ちょっとうるせえぞ」
「うぁっはははっ!ごめん!」
何が面白いのか力強く肩を組んできて大声で笑い転げる高坂はまさしく酔っ払いの鑑。
しかし相当飲んでいたわりにこうしてしっかり歩けて、だらしなく潰れないあたり結構酒に強いのかもしれない。接待で鍛えられたとかかな。
俺が高坂に会うのは10年ぶりだった。
25歳の高坂は、15歳の高坂と大きく変わっていた。
同じくらいだった身長には大きく差が出来ていた。前回の健康診断では181センチだった、と誰かとの会話で聞こえた。いかにもだった野球部らしいスポーツ刈りも今やその気配は無くなり伸びた黒髪の毛先はお洒落に跳ねている。
顔立ちはさほど変わっていないと感じたが、逆に言えば他はほぼ違う。
身なりは元より靴や小物に至るまですべてがこざっぱりとしていたし、仕事の電話だと一時離席していたときにちらりと窺った顔付きも声色も、元担任にも終始きちんと敬語だったことも、全部俺が見たことのない精悍で誠実な大人の男の仕草だった。
きっと普段はこの髪をきっちりとセットして、都会のビルの小綺麗なオフィスなんかで高そうなスーツでも着こなして、感じのいい爽やかな笑顔を振りまき快活にスマートに働いているんだろう。
今日、仕事入ってなくて良かった。モルタルや塗料で汚れた作業着姿や荒れた手だとか、一日一回は仲間内 に怒鳴ったり怒鳴られたりするのだとかを今の彼になんとなく知られたくないと思った。
俺は自身の職業や人生を恥じたことはないけれど、高坂の立ち居振る舞いから滲む眩しさに僻みにも似た奇異な感情が頭をかすめた。
今回の同窓会には、元野球部の誰かがこいつを誘ったらしい。
小学校と中学校が同じだった高坂。
県外の寮制の私立高校を受験し、そのまま東京の大学へ行ってどこかの会社に就職した高坂。
最初こそ取っていた連絡も徐々に無くなった。
SNSでざっくりとした近況は知っていたがこれといって絡むこともしなかった。別に、仲違いしたわけではない。
至って普通の自然消滅、物理的距離がもたらした疎遠。しかしあくまで知り合いではある温度感。今日だって顔を見合わせれば親し気に挨拶を交わして、お互い笑顔で話も弾んだ。
……俺はほっとしていた。
俺と高坂の関係は、客観的にも主観的も『中学時代の同級生』に落ち着いた。
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