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29 狡くて愛しい、僕の番①
昨日からずっと傍にいたのに、柚希はやっと心の底から正面をきって和哉に向き直り、色っぽく吐息をほうっと一度だけつくと、未だ涙を湛えた大きな瞳を眩しい陽光にやや目を細めながらも、ひたっと向けてきた。
「カズ……こんな俺のことをずっと慕い続けてくれて、ありがとう。それでもさ……。お前には世界で一番幸せになって欲しいっていう気持ちは今も変わらないし、正直俺がお前のことを誰よりも幸せにしてあげられるか、今のところ自信がない。それでもお前が望んでくれるなら、俺を……。和哉の……、つ、番にしてください」
(しまらないし、そして相変わらず煮え切らないけど)
終始受け身の人生に徹してきた柚希にしては頑張ったであろう告白に、和哉は内心熱い思いが溢れて顔がどうしても締まりなく微笑みそうになるのをなんとか抑えて、恰好をつけながら兄の頭をさらっと撫ぜた。
「上出来」
端的に呟いたのち、和哉は一度寝台を元気よく飛び降りて離れ、どんどんと昇る太陽が黄色い光を放つ窓辺に立ってカーテンをぴしゃっと閉め切り、途端にまた夜の続きのような仄暗い空間に戻す。
柚希は真っ赤な顔ではあはあと乱れた吐息をついて、和哉が離れたこの機を逃さず上掛けを引き寄せひっかぶり、あちこち反応する身体を隠そうと画策した。
和哉はバスローブを豪快に脱ぎ捨てると、中学生ぐらいの和哉の裸体しか凝視したことのない柚希が目にしたら、腰が引けて逃げ出すような大ぶりな自らを隠そうともしないで仁王立ちした。そしてまたしても無駄な抵抗を試みる柚希に片眉をつり上げた。
「柚希!」
「じゃあ、そういうことで……。一回、寝る。気持ちの整理を……」
「往生際、わるっ!!」
上掛けの下からもごもごとした声が聞こえてきたので呆れつつも、もう逃げ場はないぞと琥珀色の双眸を見開いた。
「うぐっ、だって恥ずかしいだろ。ちっちゃい頃から裸を見慣れたようなお前と、今さらこんな、急に……」
そんな言い訳をごにょごにょとしたが、昨日から何度も成長した弟の逞しくも麗しい姿に見惚れていたなど口が裂けても言えなかった。
「そんな風に思ってるのは兄さんだけだよ。風呂に一緒に入っている時も僕は己の精神力を鍛えるための修行だと思って耐え続けていたんだからな」
「はあ? お前そんな小さい頃から俺のことそういう目でみてたのかよ?」
「当たり前だろ! 今更なにいってるんだよ? 僕はファーストキスも兄さんだし、初めて射精したのだって兄さんの……」
「うわー、やめろ、ばかばか。俺の天使、可愛いカズくんの記憶が汚れる、恥ずかしい!!!」
「僕とこれから、一生、何百回も何千回も、恥ずかしいことするんだよ? 柚希、僕が汚してあげる。一緒に汚れよう?」
「一生?? 何千回? むりむりむり!!! 若いお前と違って身が持たない!」
「何言ってるの? 兄さんもまだ二十代でしょ」
「今どきの若者は淡泊なんだって……。それにお前、俺に……」
小さな小さな声で恥ずかしそうに『勃つ、のか?』なんて呟くから、すでに柚希の香りに充てられ始めている身体が寧ろさらにぎゅんっと天を突いて元気になってしまった。
「自分で確かめてみたら?」
本当は柚希の真っ白な身体を余すところなく眺めながらさらに和哉の所有印をその牙で刻んでいきたかったが、中々甘い雰囲気にはならないがもはや染みついた我慢をする必要もない。
がばっと布団を剥ぎ取るではなく、小さな頃のように強引にそっぽをむく柚希の隣に滑り込んできて、抵抗する兄の腰骨から引き締まった尻の辺りに欲望を擦り付けると、柚希は小さく「ひゃあっ」っと悲鳴を上げてさらにじたばたとした。
和哉は広げたら柚希の顔も一掴みできそうな掌で柚希自身を完全に握りこんだ。
すでに先走りで濡れたそれをにちゃりと軽く摩っただけで、小さく身体を震わせて柚希はひんっと小さく啼いて大人しくなった。
「な……。だめだめ、触るな、で、でちゃうから」
「ダメダメばっかり。それも可愛いけどさ。『和哉、いけない』ってエロく言ってよ? 僕兄さんのああいう年上ぶった喋り方。すごく、好き」
「あっああ……、ああ!」
「気持ちいいだろ? いいよ。出せ。出せよ」
後ろから抱きかかえ項に舌を這わせながら輪にして柚希を握りこんだ手を追い詰めるピッチを速めると、腰をびくつかせてあっけなく果てた。
身をくねらせ、はくはくと息をつく柚希を休めることもなく、それを合図に和哉は項から漏れるように日頃より凄艶に香る柚希に、もう自分の理性を手放してもいいと欲望の赴くままに動き始めた。
身体を寄せ擦り付けていた柚希の尻はすでにしとどに濡れ、長く太い和哉の指を難なく飲み込んでいく。初めての身体にいきなり和哉の小さくないアレをねじ込んでは可哀想だと思いつつ、一本ずつ増やしていくが、しかしそんな懸念は指はそのたび入り口で柚希に嵌まれ、熱い粘膜はとろとろとすでに緩んでどこまでも飲み込まれていく。
「兄さん……。柚希。もう濡れてる……。気持ちいい?」
「く、うぅ。ああ、あん」
どこか甘えを含んでいるような泣き声をあげる唇に覆いかぶさるように口づけると、応えるように柚希の甘い舌先が僅かにちろりと差し出されて胸が熱くなる。
そのままそれを舐めとれば、今度はまた逃げるようにこわごわと引っ込めるので、和哉は意地悪をするように開いている方の手で柚希の小さな乳首の先をきゅっと摘まんだ。
「いたっ」
開いた唇に閉じぬように長い舌を差し入れて口づけると兄の敏感な部分を探っていく。身体をぴくりっと震わせて指まで喰い占める場所を見つけたら、そこをそよがせるように攻めながら、胸と尻の両方から指先で断続的に刺激を与える。夢にまで見た柚希の身体を思うがままに触れられると思うとどうしても力が入ってしまいそうになるが、ここに来ても和哉はふーふーっと荒い息を吐いて興奮を逃そうとする。もうこうなると長年の習慣だともいえた。
「んっ! んー」
弟の思った以上に器用な手練に柚希は頬を染めながら、痛くない程度に舌を噛めば、和哉が顔を離して兄の顔を覗き込みながら上唇をくにくにと指先で押して尋ねる。
「痛かった? 気持ちよくなかった?」
「……よかったけど。お前なんか、手慣れてる」
蕩けた表情で目元まで朱に染めながら、柚希は少し寂し気に長い睫毛を伏せる。色香溢れる仕草と悋気と受け止めてもいい言葉で、和哉は余計に煽られた。
「兄さんを気持ち良くしてあげたいし、沢山愛してあげたいから、ちょっとだけ練習してきたんだよ。こんな風にしたいのはずっと、兄さんだけだよ?」
「俺だけ……?」
「そうだよ。だから僕に兄さんを全部ちょうだい?」
(兄さん、だって。カズくん……)
リラックスしきっているのか兄さん呼びに戻った和哉を、やっぱり変わらず愛おしいと柚希は思う。柚希が和哉にあげられるものは少ないし、欲しがるのならばいくらでもなんでもあげればいいとそんな風に思えるようになった。
なにより愛情深い仕草に心も身体も溶かされ、あらぬところを愛撫されることも不安でない。晶とはあれほど触れ合うのが怖かったのに、和哉とは自然とこういうことも落ち着いて迎えられた。
心が決まれば今度は素直に身体が快感を追いだし、狼が番を慈しんで舐めるように首筋、背中と小さなリップ音をたてながら口づけられるのも堪らなく心地よい。勿論その間も胸や蜜壺への柔らかな刺激は止まず、たまに一番良い部分を試すように掠めていくのがもどかしくて堪らなくなった。
「はあっはあっはあっ……」
一転して静かに柚希の反応を試し試し攻めてくる和哉と違い、呼び起された欲に翻弄されはじめ息を荒げた柚希は、苦し気に腰をよじってシーツに自分の欲望を擦り付けながら腰を動かし始めた。小さくくいくいっと動く腰は色っぽく、和哉は思わず喉を鳴らす。
「兄さん、前また気持ちよくなった? 床オナなんて、エロすぎでしょ?」
「?? ああっ」
細腰をがっしりと弟に抱えられ、その動きを制止されると、後ろからだけ与えられる絶え間ない刺激が腰の辺りに逆巻き、気が変になりそうだ。
そのままもどかしく蜜壺の中の一番いいところを一瞬摺られては外されてと酷薄な責め苦を繰り返される。和哉から今まで柚希がしでかしてきた仕打ちの恨みでも晴らされているのかと思うほど、執拗な行為に顔をぐしゃぐしゃにしながら柚希は和哉の手をまさぐって自分の股間に導いた。
「さ、触って。さっきみたいに、してぇ」
「前触らなくても射精できるよ。Ωは後ろのが気持ちいいんだって?」
「むり……。できないよ」
「できるよ。この中でさ」
指先の腹でぐいっと押された前立腺の僅かな膨らみにびりびりっと身体に電気が走ったような刺激を受けて柚希は達しかけ、しかしその瞬間和哉の大きな掌が柚希の腰の物の根元をきつく戒めた。
「カズ、だしたいぃ。やめて、それやだ」
「発情期なのに、まだ理性が残ってるの? いいかげん観念しなよ。柚希、もっともっと気持ち良くしてあげるからさ。いってよ。僕が欲しいって」
「え……」
和哉は柚希をうつぶせに寝かせると腰にわだかまっていたガウンを剥ぎ取り、昨日噛みついた跡が毒々しい赤と青に染め上がった項を見おろした。
すぐに真っ白な肩口にも感情をこらえきれずに噛み痕を残し、ひくひくっと身体を震わせる柚希のくびれた腰を両手で掴んで尻を自分の腰に固定した。
その手を上から重ねられた柚希の手が震えながら爪を立てる。
「かず、こわいよお」
「だーめ。怖くてももう、僕のものになるんだから」
舌を出し長いストロークでべろりっと項を舐め上げて、未だ雫をぽたぽたと垂らす柚希の陰茎に自らのずっと大きなそれを擦り付けて腰を一度だけ大きな音が鳴るほど強く押し付けると、きゃうっと悲鳴を上げて再び達した柚希が寝台に崩れて顔を埋めた。
「ひうっ」
泣き出した顔を横に向けさせ、仕草だけは優しく柔やわと頬や目元、唇に口づけると、柚希は口元を僅かに綻ばせてうっとりと和哉を見上げてきた。
「かず、いいよ。おいで」
いいしな健気に身体をよじって頭を上げ、和哉の唇に自ら口づけをくれる。それだけでも、和哉は情けなくも達しかけてしまって……。
「柚希、愛してる」
それを感づかれないようにと早急で乱暴な動作で、一気に兄の中を貫いていった。
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