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番外編 夏祭りの約束 9-1
浴室に入った後もすぐにシャワーを浴びるでもなく、情欲混じりの熱い眼差しを向けてくる和哉に、柚希は半起ちの自らを隠したくて長い脚を交差しもじつかせた。だがまた急に情けない気持ちになって、泣いて泣いて落ち着かない時の息子の蜜希ぐらい唇を戦慄かせてぷいっと視線を外す。
和哉はそんな柚希の姿をみて、いますぐどうにかしてやりたいという愛欲と、純粋な愛情の籠った複雑な目線でなお見下ろしてくるが、 柚希の方は二人きりで向かい合ってしまったら、余計に恥ずかしさがましてたまらなくなった。
「そんな、じっとみるな……」
「どうして?」
日暮れ後の路上とは違い、炯炯と互いの素肌が晒される明るいバスルームで、柚希は腕組みして我が身をそっと隠しつつ、欲に流されかけた気持ちが少しだけ我に返った。
「和哉はいいよな……。身体見られたって恥ずかしくないだろ」
和哉は二十代半ばを過ぎてなお、学生時代と同じぐらいに引き締まり、いやそれ以上にがっしりと筋肉の厚みの増した身体は彫刻の様に美しい。真夏の今はビジネスカジュアルで通勤しているがここぞという時の三つ揃いのスーツ姿なぞ、男目線でも見蕩れるほどの美丈夫だ。平日は夜、土日も早朝から起き出して走ったり子供らと積極的に公園に遊びに行ってくれたりしているからかもしれないが、それにしてもその程度でもこの体型をキープできるのは恵まれた体格過ぎると羨ましくなる。
それに引き換え、柚希はバスケ部現役時代の細マッチョはどこへやら。子どもを産んでからΩらしい身体の丸みがでてきてしまって、腰はほっそりしているがなんとなく筋肉がつきにくくお腹の辺りも白く円やかな雰囲気になってしまった。和哉は褒めやして隣に寝ている時など腹を撫ぜてくるが、柚希としてはいたたまれない。本当はジムにでも通いたいが子育てと仕事に追われ日々をこなすことで精一杯。そんな時間がとれるはずもなく、思い描いていたバキバキの腹筋は夢のまた夢といったところだ。
「柚希」
和哉が何か言いかけたというのに、柚希は素早く腕を伸ばすと当てつけのようにシャワーヘッドを手に取ってじゃばじゃばとわざと彼の顔目掛けてお湯をかけてしまう。
「こら、やめろって」
和哉は色気滴る仕草で濡らされた髪をかき上げながらゆっくりと柚希からシャワーヘッドを取り上げた。そのまま子どもたちと風呂に入る時には低い位置で固定してるシャワーヘッドを高々と支柱に固定する。
柚希も頭上から降り注ぐ湯を浴びたあと、両手ですくって顔をごしごしとわざと乱暴に拭って汗を流していたら、胸元を甘い芳香を漂わせる石鹸を纏った大きな掌がぬるり、と正面から掠めていった。
「あんっ」
(変な声だしちゃった……)
胸先に走る甘い疼きをと自分でも思いがけぬほど悩まし気な声を上げてしまう。
「ふふっ」
「なにすんだよ」
嬉しそうに笑われたので睨みつけたら、悪戯を咎められたワンコのような甘い目線が柚希を覗きこんできた。その表情はもしも和哉が柚希になぞ興味がなく女と浮名を流しならばとんでもない色事師になったであろうという艶めいたもので、その、端正な美貌の中で琥珀色に光る瞳が柚希を捉えて離さない。
「柚希は綺麗だよ。綺麗というか……。いやらしい身体すぎて、もう誰にも見せたくない。今年も子どもたちのプールは僕が連れていくからね? 柚希はお留守番」
「なに、それ、んっ……」
再び寄せられた唇は、軽い音を立てて離れていくから物足りなくて、逞しく太い腕を掴むと再び柔やわと口づけられて、再び抵抗する気持ちがゆっくりと薄れていく。離された唇が耳に付くほどの距離で当てられ、ここ数年より深みと低さが増した声で囁かれる。
「柚希はどこもかしこも、触れるとすごく滑らかで気持ちいいよ」
いいしな、後ろに回された背中から腰、臀部まで大きな掌でいやらしく撫で上げられて、柚希は細い腰をびくんっとしならせた。そのまま片腕で抱き寄せられ、先ほど髪をかき上げ露わになった、額にちゅっと口づけられる。
「くすぐったい!」
「子どもの頃から誰にも咎められずにこんなふうに柚希に触れたかったから、今こうしているのが、夢みたいだよ」
「お前、あの頃はワンちゃんみたいに可愛かったのに……。そんなこと、ああっ、……考えてたの?」
和哉の硬い指先で胸への刺激を断続的に柔らかく、繰り返されるがもっとも愉悦を生み出す乳首の先へはわざと反らされ、柚希の欲を煽ろうとしてくる。それはそれで辛くて、涙が目の端に溜まって喘いだ。
「それに子どもたちが生まれてから……。ここがさ」
「んっ! やめ……」
いいしな今度は急に乳首をぐり、きゅんっと摘まみ上げられた。それと同時に自分でもわかるほどにお腹の奥も同じようにずくっと、疼く。
そしてそのまま先ほどまで放置され少しずつ治まるかに見えた柚希自身のものも和哉の大きな掌の中に握りこまれてしまう。
「カズ、それ、やあっ」
親指で先を刺激されながら、ゆるゆるとしごかれたから、ひっきりなしに嬌声を漏らしそうになり、柚希は普段の癖で自分の掌で口を覆う。
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