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美智生は丁寧に化粧をして、衣装担当の女子たちが用意してくれたウィッグとメイド服を身につける。実は楽しんでいることが周りにバレないよう、ポーカーフェイスを保つ。
黒いフラットシューズに足を入れると、クラスメイトは真面目な副委員長の、本気のメイド姿を見て喝采した。
執事の衣装を着て眉を太めに描いた、少年のような服部が目を丸くした。
「わぁみっちぃ美し過ぎる、どこの女神」
美智生は素直に嬉しくなる。でも本当に褒めて欲しいのは――。
村地は休暇を取っていて、生徒たちに裏切り者呼ばわりされたからか、午後からお茶をしに行くと言っていた。
実行委員が文化祭の開始を宣言してすぐに、男女逆転喫茶店には客がやって来た。甘い香りが漂う中、三人の執事と三人のメイドは、飲み物とお菓子を銀色の盆に載せてくるくると教室内を歩き回る。ホットプレートでパンケーキを焼く調理担当も、キッチンスペースで大わらわだった。
午後、他のクラスの男子たちが訪れ、美智生を見て驚愕の声を上げた。
「えっ樫原⁉ マジつき合って」
「絶対嫌、みんなコーヒーでいいな?」
美智生が水の入った紙コップを机に置きながら冷ややかに対応していると、むらちぃ、と女子たちの声が教室の外から聞こえた。美智生は背筋を伸ばして、入口に顔を向ける。
「お二人様お通ししま~す」
お二人様? 誰と来たのだろうと思いつつ、愛しい男の姿を待ち受ける。服部が美智生に近寄ってきて、真顔で小さく言う。
「むらちぃ女の人と来たよ、しかも何かデートっぽい」
「え?」
自分を案内するごついメイドの姿に笑いながら、村地がこちらへやって来た。初めて見る彼のスーツ姿に美智生は見惚れたが、その後ろに頭一つ小さい女性の姿を認め、どきっとした心臓をぎゅっと掴まれたような気がした。
「おおっミチル、綺麗だなぁ……ユーリもいいじゃないか、可愛らしい」
村地はこちらにやって来て、楽しそうに言った。可愛いじゃダメ、と服部が唇を尖らせる。
「てかその名前何だよ」
「男装女装メンバーの源氏名を考えた」
美智生の突っ込みに村地は満面の笑みで答えた。やはり胸がきゅっとした。
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