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奇妙な関係
待ち合わせは駅裏の安いビジネスホテル
516号室に20時
連絡先も名前も知らない
会ってヤルだけの関係
1時間待って相手が現れなかったら次は無い
これが互いに決めたルール
俺が先に着いた事はない
いつもアイツが先に来てドアを開ける
「こんばんは」
「…ああ」
「シャワー浴びる?…それともすぐヤる?」
「ヤる」
「ん、わかった」
会話なんてこの程度
会う度に減る一方だ
最中だって必要以上の声なんてかけない
欲望を吐き出してタバコを一本吸ったら終わり
「次、いつ?」
「来週は無理」
「じゃあ、来月かな」
「なら8日」
「ん。じゃ予約入れとく」
フロントへ次の予約を入れたらもう話す事も無い
服を着て部屋代の半分をサイドテーブルヘ置く
もう後は帰るだけだ
まだベッドで横になるアイツを残し部屋を出る
「またね」
「ああ」
パタン
エレベーター前で時間を確認する
22時18分
喉が渇いた
終電までまだ時間はあるな
何処かで酒でも飲んでいくか
いつものバーに寄ってみるのもいい
そうだ
馴染みのあのマスターにこの奇妙な関係を自慢してやろう
いや
やっぱりやめた
紹介しろとか言われても面倒だ
第一アイツの名前も歳も連絡先すら知らないんだ
なんて言って説明したら
チン
軽快な到着音
エレベーターのドアが開く
中に乗り込んで1Fのボタンを押した
次は来月か
来月
いつもより少し間があくな
まあいいか
またどうせ会えるから
エレベーターを降りフロントの脇をすり抜けホテルを出た
外は少し肌寒い
もう秋も終わりか
次来る時にはコートが必要かもしれない
でもアイツはまた先に来て待ってるだろう
少し湿った髪で
安物のバスローブを羽織り
そっとはにかむような顔で
「こんばんは」
て、迎えてくれるはずだ
…次
次会ったら
名前くらい
聞いてもいいか
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