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第1話

 何でもない日曜日。幼馴染である山香伊吹からの連絡を受け、僕は待ち合わせ場所の駅へと足を運んだ。地方都市であるこの街では、待ち合わせ場所は限られている。改札口傍のエスカレーターを降りた先にある大画面ビジョン。既にその姿はあった。伊吹は剣道を嗜んでいたこともあり姿勢が良く、長身なこともあり、その姿を容易く見つけることができた。 「葵、久しぶり」  高校生の頃までは毎日のように顔を合わせていたが、伊吹が県外の大学に進学してからは、その頻度は激減した。県外といっても隣県であるため、ちょくちょく家に帰ってきているようだが、それでも姿を見かけることは少ない。 「年末に会ったのが最後だったね」 「だな。何か不思議な感じがするわ」  年末に高校時代の友人たちと集まったことがあったが、まともに顔を合わせたのはそれが最後である。今が七月末だから、半年以上会っていないことになる。いつまでも子供ではいられない。寂しい気持ちはあるが、それに慣れなければならない。それにこれから聞かされる話を考えると尚更だ。 「どうしようか。どこかに店に入って話をする?」 「カラオケでいいか?」 「いいよ」    駅前のカラオケ店に立ち寄ることにした。まあ、二時間程度で終わる話だろう。伊吹からの恋愛相談は、何度目だろうか。恋愛相談と言っても、伊吹自身が恋慕の情を抱くというよりは、女子からのアプローチをどうしたらいいかと相談を受けるといったものだった。  長身でスポーツ万能、成績も良い。しかも誰にでも優しいときている。学校でも目立った存在だった伊吹を女子生徒が放っておくわけもない。しかも本人は無自覚だからたちが悪い。しかし、何故僕なんかに恋愛相談を持ち掛けてくるのか。 「お前は茶化さない。口外しない。そして、お前の反応が知りたい」  恋愛沙汰は学生にとって注目の話題だろう。確かに他の級友なら面白おかしく言いふらしたかもしれない。僕は確かに伊吹の事情を誰かに口外する気はなかった。僕は幼い頃に両親と死に別れ、親戚中をたらい回しにされ、人間不信に陥っていた。そんな僕を一人の友として扱ってくれた伊吹の幸せを願っていたからだ。伊吹には恩がある。だから、彼が苦しむようなことはしたくない。 お前の反応が知りたいというのは、きっと僕が人の悪意や敵意に敏感だったからだろう。

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