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第2話
「今回言い寄ってきた子はお前のことは、自分のステータス向上につながるとしか思ってないよ」
「今回の子は純粋に伊吹に憧れている感じかな」
そんなアドバイスをしたような記憶がある。まるで百戦錬磨のようなコメントだが、僕には恋愛経験はない。それどころか、幼少期に親戚の女の子から意地悪をされたせいか、どうも女の子を信用できないところがある。勿論、男でも腹の立つ奴はいたが。
伊吹は律儀にも僕の発言を信じたのか、僕が肯定した子とは、お付き合いをしたことがあったようだ。ただ、部活に打ち込んでいたせいか相手から幻滅され、振られていたようだが。
「『こんなつまらない人だと思わなかった』って言われた・・・」
「どうせ剣道の話ばっかりだったんだろ」
「それはそうだけど、勝手に好かれて、勝手に幻滅されて、なんだかなって感じだ」
「人は自分の都合の良いようにしか、見ないからね」
「葵って、やっぱ大人だよな」
高校生の時、伊吹はそんな風に言って笑っていた。違うんだよ。僕は大人なんかじゃないんだ。人よりちょっと隠すのが上手いだけなんだ。君が破局を迎える度、僕が胸をなでおろしていたと知ったら、君は驚くだろうか。
でも、これは、君の不幸を喜んでのことじゃない。僕の平穏が保たれることへの安堵だったんだ。君が、誰かのものになる未来はまだ先なんだと、意味のない先延ばしが確約されたことへの安心感。
いつからかは分からないけれど、伊吹、僕は君のことが好きだったんだ。友達としての好きじゃないことも、とっくの昔に気づいている。
伊吹は僕を守ってくれる存在だった。どこで知ったのか、級友たちの中には、養父母に引き取られた僕を詰る者もいた。傷つくこともなかったし、口論で負ける気はしなかったが、喧嘩になると滅法弱かった。そんな僕の盾になってくれたのが伊吹だった。
君が恋愛相談を持ち掛ける度に、僕の心はちくりと痛んだ。しかし、それを表に出してはいけない。「親友」は友人の恋を応援するものなのだから。これまでは、ままごととして片づけることができた。高校生の恋愛が成就するなんてことは、聞かない話ではないが、あまりない事例だ。しかし、大学生になった今、同じことが言えるだろうか。現に僕の養父母は大学生の先輩後輩だったと聞いている。大学がレジャーランドと呼ばれていたのはひと昔前のことだけれど、そういう場としての機能は残していると思う。
だから、今日の相談が、最後になるかもしれないね。もう、君の人生の分岐点に僕が絡むことはなくなるのかもしれない。それは悲しいことだけれど、僕は君の期待に応えたい。
カラオケ店の個室に入ってしまえば、第三者が視界に入ることはない。テレビから流れる声を気にしなければ、内緒の相談をするのにはうってつけの場所だろう。
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