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第5話
はあ~と長いため息が聞こえる。軽蔑しろと思いながらも、いざ現実になるとやはり胸は痛むものだ。何もそこまで分かりやすい反応を示さなくてもいいじゃないかと思う僕は、やはり贅沢なのだろうか。
「俺も、好きだ」
「うん、だから、それを好きな相手に言わないと伝わらないよって話で」
「・・・何言ってんだ」
気がつけば、僕は壁と伊吹に挟まれていた。ここまで接近したことは、これまでにも数回しかなかったような気がする。まだ、恋心を自覚していなかった頃の話で、気づいてしまった今は、とても恥ずかしいことに思える。
「人の告白を流しやがって。あのな、俺が好きなのは、お前だって言ってんだよ」
決して難しい話ではない。小学生でも理解できる内容のはずだ。しかしそれでも、僕の頭では上手く整理できない。伊吹が僕を好きだと言ったのか。あり得ない。どうして。僕は、好かれるような人間じゃない。
「大学行って、お前と離れて、他に友達もできたけど、何か物足りなくて。お前と同じ大学の友達にそれとなく聞いてみたけど、何かもやもやして。俺がいない間に誰かお前がいい相手見つけてたら・・・とか考えたら、まずいなと思って。今日、呼んだのはそういうこと」
「僕は伊吹と違って、そんなに人から慕われるようなことはないよ」
僕がそういうと、伊吹は顔を背けて吹き出した。そんなに可笑しなことを言っただろうかとその顔を見つめていると、ひとしきり笑い終えた後で、語り始めた。
「お前って、本当に、人の好意には鈍感なのな。お前のことを良いって言ってるやつは、結構いたんだぜ」
「それは、買い被りだよ」
「まあ、いいや。それより、俺、葵の口からちゃんと聞きたいな」
この文脈で、求められていることが分からない程、僕も鈍感ではない。間違いなく今、僕の顔は赤いだろう。
「さっき、言ったよ。さっきので、わかっただろ」
「ええっ。俺の『勘違い』かもしれないし?」
こいつ、さっきより距離を詰めていないか。少し前まで腕を伸ばしきっていたのに、腕を曲げている。どうせどこにも逃げる場所もなければ、その必要もないのに。
未だに夢の中にいるようで、どこか現実味はないけれど、この胸の高鳴りは間違いなく本物で。今にも、思いよりも先に鼓動が飛び出してしまいそうだけれど、言葉を紡ぎ出そうと、思考を巡らせたところでふと我に返った。馬鹿だなあ。考える程のことじゃない。ずっと思っていたことを口にすればいいだけだ。
「こんな風に誰かを好きになったのは、伊吹が初めてだよ」
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