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第4話
「僕が、困ることなんて、何も」
伊吹が幸せになるのなら、僕が幸せでなくとも構わない。そう思っていたけれど、いざ、その事実が確定しそうになると、心が拒絶する。
ああ、そうさ。僕は困っているんだ。僕が願いを叶えるためには、身を切る思いをしなければならない。そして、僕には思いを告げるだけの勇気がない。伊吹に嫌われるのが怖いから。そんな度胸のない僕は、ただ、手をこまねいて見ているしかないんだ。
「何で、そんなに震えているんだよ」
指摘されるまで、震えていた。表面化させては駄目だと頭は制御をかけるけれど、体が言うことを聞かない。心配して、優しい伊吹がこちらに近寄ってくる。
「僕が、困ることなんて、何も、ない。大丈夫」
「本当かよ。困るだろ、お前」
何でそんな真剣な目で僕を見つめてくるのか。他に好きな相手がいるくせに。やめてくれ。その行為に友愛以上のものがあるのではないかと期待してしまう自分が、確かな喜びを感じている自分が惨めでたまらない。
「・・・・・・しつこいな。伊吹には関係ないだろう。僕がお前を好きでいても、お前には他に思っている相手がいるんだから!」
丁度良くテレビの声が途切れた。次のCMに移るのだろう。よりによって何故このタイミングで無音になるのか。だが、この感情は遅かれ早かれ溢れてしまっていただろう。今ならむしろ傷は浅く済むかもしれない。出てしまったものは仕方がない。今から理路整然と弁明できるとは思えない。
しばしの沈黙が痛い。思考停止した伊吹の顔を見続けるのが辛い。さっさと軽蔑してくれ。気味悪がってくれ。そしてお前は幸せになってくれ。それが僕の望みであることは変わらないのだから。
「ちょっと待て」
解析が終了したのか、伊吹が口を開いた。遅いぞお前のOS。さっさと買い替えろ。そして、今日のことは全てなかったことにしろ。
「お前が好きなのは、俺なのか」
「そう、だよ。幻滅しただろ」
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