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第1話 陥る

学校が終わって家に帰ると、なぜか父の靴が玄関に揃えて置かれていた。こんな時間に父の靴がある事は珍しく、何かあったのかと不安に思いながら「ただいま」と声をかけて中に入った。 僕、柊隼人《ひいらぎ はやと》は来月高校を卒業する。色素の薄い髪と二重の瞳。色も白く、双子の妹撫子《なでしこ》とは瓜2つで女の子の双子だと間違えられるのは日常茶飯事。その撫子は3年前から留学して今は家族3人で生活している。 「隼人。ちょっと来なさい」 リビングを通り抜けようとしたところをソファーに座った父に呼び止められた。 「なに?」 カバンを手に持ったまま振り返ると「座って」とキッチンから母が出てきて向かいのソファーに座らせられて母も横に座った。 スーツを着たままの父の顔は青ざめ、目の下にはクマができていた。いつもの威厳は無く、暗い雰囲気を漂わせていた。 それを見るだけで何か悪いことが起こったのだと推測できた。 「会社が倒産する」 「え?」 小さく呟いた父の言葉に聞き返した。父の会社はIT関連の企業ではあったがこのところの不景気で株価も下がり、苦しい経営状況に追い込まれているのは事実だった。しかし、倒産とは無縁だと思っていた。 「共同経営していた八代が他社と提携を結んで我が社を見捨てた。開発中のソフトも……」 八代というのは父と共に会社を立ち上げ、これまで一緒に頑張ってきた親友のはずだった。この家にも何度か来たことがあって、僕も顔見知りではある。父と同じ歳。ただ……ギャンブルが好きだった。

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