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第4話 妙案 3/4

静かに走り出した車。座席の端に座って履き慣れないスカートを握り締めた。 「そのように緊張されなくても大丈夫ですよ」 広い後部座席の横に座った伊地知さんはそう言って「着くまで時間がありますから、こちらのスケジュールに目を通して頂けますか?」とクリアファイルに入れられた大量の書類を僕に手渡した。 聞いていながらこっちの意見は聞かないんだ。 「これは?」 何枚にもわたるスケジュール表。 まさか、これを僕にこなせって? 「結婚式までの段取りや撫子様に覚えて置いて頂く事項が書かれております」 「結婚式……って、あの、まだ結婚が決まったわけでは……」 結婚を前提に引き取りたいとは言われているけど、それはまだ猶予があるってことだったんじゃないのだろうか。 「結婚式は来年の撫子様の二十歳のお誕生日と社長から伺っております。それまでに撫子様には覚えて頂くことがたくさんあります」 「え、いや、だから……ぼ、私はまだ結婚なんて……」 結婚なんてしたくない。覚えたくもない。 言い淀んでいると、「社長のご意思に従うのが私の仕事です」と強く言い切られた。 来年の誕生日。先週の4月5日が僕の誕生日だった。19歳になったばかりだ。来年の誕生日まで1年。 それまでに僕は嫌われて、須藤さんに断られるように仕向けなければならない。 1年あれば十分だ。 「社長はお忙しいので私がお付き合いすることのほうが多いでしょうから、気兼ねなく何でもおしゃってください」 「………はい」

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