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第10話 深夜の逢瀬 1/10
「……わぁあっ……ととと……」
慌てて手すりにしがみ付いた。
2階から1階へ降りる階段。途中曲がっているその階段はゆったりとした造りで広い。だけど、ヒールを履いて降りるのはとても怖かった。
あの約束をした後、伊地知さん自らが階段を降りて見せてくれた。
それはとても優雅で気品溢れるものだった。
僕はあれから3日も経つのに半分も降りることが出来ない。
まっすぐ歩くだけならともかく、階段を降りるとなるとヒールがあるせいで斜めに立ったまま進むようなもので、バランスを取り難い。
朝起きて生け花や書道、茶道を恵美子さんに教わり、午後からは英語とドイツ語、中国語をビデオを使って学習する。
その合間にこうやって練習している。
伊地知さんに見られるのは明後日だ。
今日は空いている時間がなくて練習できなかった。寝巻きに着替えて恵美子さんも離れの家に帰ってからそっと寝台を抜け出した。
夜中はセキュリティーシステムが働いていて、僕は屋敷に1人きりだ。最初は心許なかったが、1人と言うのは案外楽で、この時間だけは男らしくいられた。
部屋の中は鍵をかけてウィッグも外しているが、今日は念のためウィッグを着けていた。
寝巻きは白いシルクのネグリジェだ。それはふんわりと裾の方に広がりたっぷりのフリルと同色のリボンでとても可愛らしい。袖もゆったりとしたパフスリーブ。まるでお人形さんのドレスのようだ。
そのネグリジェのままヒールを手に持って階段までやって来た。
階段の上でそれを履いて階段を降りる。
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