「まーきの、まだ終わらないのー」 「別に待ってなくっていいっての」 「だってさー、つまんねーんだもん」 「誰かと帰れば良かったじゃん。谷村とかが誘ってたじゃねーか」 　放課後の教室に牧野と俺が居る。他の人は殆ど帰ってしまって、あと数人が帰る用意してたり、友達同士で喋ったりしていた。 「牧野って、いつもはテキトーなのに、日直の仕事はちゃんとやるんだよなぁ、なんか変なの」 　牧野はきっと怒るだろう、と思いながら軽口を叩いてみる。 「ウルセーなぁ。俺はいつだって真面目なんだよ」 　ほらやっぱり。牧野ったらムキになった。 「なぁ、もう１人の日直のやつ、えーっと……三田だったけ？　あいつはどうしたんだよ、お前だけでやる事ないじゃん！」 「三田は部活に行ったの。午前中はあいつが殆どやったからいいんだよ。分担作業だってば」 「ふーん」 　なんか、ホントに真面目な事言ってるよね、牧野。 　俺は牧野の前の席に後ろを向いて座って、牧野が日誌に書き込んでる文字をじっと見つめていた。 「牧野って、字、綺麗だよなー」 　顔に似合わないっていう感じ？　もっと男っぽい字を書きそうなのにな。 「あー、小学校の頃に書道教室通ってたからさ。藤田、お前は超きたねー字書くよな。顔はわりかし綺麗系なくせに。そのギャップ、マジ笑えるぜ」 　顔を上げずに牧野が言った。いつも通り口が悪いよな。 「ウルセーな、ほっといてよ」 　字が下手なのは自覚してるし、ちょっとコンプレックスだったりするんだけど――。 「だから、ウルサイって思うなら帰れっての」 　牧野がシッシっていう感じで手を振った。失礼だなぁ、俺のこと犬と間違ってない？ 「だって、一緒に帰る奴いないんだもん」 「何言ってんだよ……帰ろうって誘われてたのに、帰らねーからだろが」 　牧野は相変わらず下を向いて、字を書いていた。 「えーだって、俺は牧野と帰りたかったんだよ」 　俺がそう言うと、牧野の身体がビクッとした。 「ちくしょー、間違えちまったじゃん。お前、いいかげん帰れよ、気が散るんだよ！」 　頭を上げ、怒った顔で牧野が俺を睨んだ。 「なー、牧野ぉー、帰りにラーメン食おうぜー。俺、奢るからさあ」 　俺がそう言ったら、一瞬だけ牧野の表情が柔らかくなった。でも、すぐに、下を向いて日誌の続きを書き始めた。 「どうすっかなー」 　牧野の声のトーンがちょっとだけ変わった。牧野は食い物に弱いからなー。