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藤田の気持ち 2
教室を見回してみると、数人残っていたクラスメイトも皆いなくなっていた。広い教室に牧野と俺だけ。
「なぁ、牧野、ところでさ、お前の好きな奴って誰なんだよ?」
俺は誰もいなくなったタイミングで聞いてみた。
「なんかお前の話、あちこち飛び過ぎなんだよな……」
牧野が呆れたように言った。
「いいじゃん。教えてよー。俺のも教えるからさ」
「誰だっていいだろ。お前には教えない」
すぐに牧野が答えた。つれない答えだなぁ、友達じゃん……。
「何だよそれー。ケチくさいなぁ」
牧野がムッとした顔をして、黙ったまま日誌を書き続けた。もうそろそろ出来上がりだろうか?
「聞いてどうすんの?」
しばらく黙っていた牧野がそう言った。何かドキドキする……。
「どうすんのって、友達同士ならそんな話するじゃん普通。ね、教えてよー」
俺が食い下がったら、牧野が一瞬顔を上げて、すぐにまた下を向いてしまった。
「俺、お前の事、友達だと思ってねーもん」
なんだよ、友達だって思ってたの俺だけなんだ? まあ、でも、口の悪い牧野の言いそうな事だよね。こんなことでめげてはいられない。
「それってかなり寂しいんだけど? それでもいいからさぁ、教えてよ。誰?」
「ウザいな、お前……女子か?」
口が悪いと思ってたけどさ、そんな言い方しなくたっていいのに――。ポジティブな俺も、ちょっとめげるよ。そして、牧野、女子に失礼だぞ。
日誌を書いている牧野の綺麗な手をボンヤリ眺めていたら、急に牧野が顔を上げた。
「知りたい?」
「え? 何を」
「何をって、ボケ。お前が聞いてきたんだろ? 好きな奴誰かって」
牧野が日誌を閉じて、席を立ちながら言った。
「……そうだけどさ」
教えてくれる気になったのかな? と思いながら、怒られるのが嫌だからしおらしくしてると――。
「俺の好きなのって、藤田」
「え? あぁ、1組の藤田実月ちゃんか? あの子可愛いよね」
俺が答えると、牧野が呆れたような顔をしていた。
「違うっての。俺、あーいうの嫌いだぜ。アホみたいで」
女子がよくやる可愛らしい仕草を大げさにまねてから、牧野が嫌そうに首を振った。
「牧野ってキツイよなー。可愛いじゃん、天然っぽくて」
「天然なんてお前だけで充分だぜ」
「ハァ? なにそれ。じゃさ、3年の藤田由希先輩?」
「それって、お前の姉貴じゃん。アホか。姉貴に先輩とかつけるな」
「だって他には……」
他に藤田ってやつが居たかどうか考えていると、牧野が日誌で俺の頭を叩きながら続けた。
「俺と同じクラスの藤田」
「え……藤田って女いないじゃん」
胸がキュンってした。もしかして? マジですか?
「お前ね、俺にやられたくなかったら、俺が職員室に行ってる間に帰れっての」
牧野がプンプン怒りながら教室を出て行った。
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