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牧野の気持ち
まったく、今日の藤田はなんだかしつこい。さっさと帰ればいいのに俺の事待ってるらしくて落ち着かない。挙句の果てに俺の好きな人が誰だとか聞いてきた。
あのな、それって俺がずっと黙ってようって心に決めてた事なんだけど――。
しつこく聞かれるのが面倒で、俺は言ってやった。同じクラスの『藤田』だって事。
お前だよ、お前。これで満足したか? 好きな奴の名前聞いて……。
俺たちの友情も今日で終わりかもな。
しつこく聞かれたからって言うべきじゃなかった、って思ったのに、最後には『俺にやられたくなかったら、先帰れ』って言って教室を出てきてしまった。
短気は損気……だよな。
先生に日誌を渡しながら、明日からどうするか? なんて密かに悩んでいた。
まぁ、冗談だって笑ってやればいいか。
明日会ったら、本気にするなんてバカじゃねーのって言ってやろう。そうすればまた、普通の友達に戻れるはずだ。
いや、あいつのことだ、「やられる」って意味を理解してないに違いない。
そう思ったら気分が軽くなった。いつもそうじゃないか。俺がどんな冗談言ったって、きつい事言ったって、あいつはサラッと流している。ってか、超天然だから、翌日には忘れてるかもしれない。
さて、教室に戻って、さっさと帰る用意しよう。
だけど……教室のドアを開けると――。
「あー、牧野!」
なんと、藤田がさっきと同じ場所に座ってるじゃないか。
な、なんだよ? 帰ってねーじゃん。これってどういう事? あまりにも驚いて腰が抜けてるとか?
いや、待てよ「さっきのってどういう意味?」とか質問してくるのかもしれない――。
「終わった? さ、帰ろうぜ」
藤田がいつもと同じように、少し惚けたような声で言った。
「あのな、帰ろうぜって、お前どういうつもり?」
「えー? 一緒に帰るつもり。いいでしょ?」
「まぁ、いいけど」
藤田のことだ、俺が言った言葉の意味、よく分かってないに違いない。
ま、いいか。その方がありがたい。
俺は鞄を持って、藤田と一緒に教室を出た。
「ラーメン奢ってくれんだろ?」
校門を出て駅に向かう途中で藤田に声をかけた。喋り過ぎる藤田はウザいって思うけど、黙ったままの藤田は何を考えているかわからなくて少し怖い。
「え? ラーメン食べるの?」
「奢るっていったじゃん、お前」
「だって、牧野、俺とやるっていったじゃん。やらないの? それとも、ラーメンの後?」
なんだよ、この反応? なにをやると思ってるんだよ?
「なぁ、藤田、聞くけどさ、お前の好きな奴って誰なんだよ?」
「ん、聞きたい?」
「まぁな」
「牧野だよ。1年の牧野ミドリじゃないよ。俺と同じクラスの牧野」
な、なんだよ、マジ?
「今日さ、親父とお袋、帰るの遅いんだよね。だから、姉貴も彼氏ん所行くって言ってた。ね、俺んち来ない?」
藤田の奴が言った。
「え……」
「おれさぁ、やられるより、やりたいかもなぁ」
藤田が俺の肩に手をまわしながらそう言った――。
終わり。
「教室を出たら」に続く感じで…
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