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金平糖1 問題児からのバレンタインデー
面識もないはずの彼から、松重小松は2月14日の校内で。
「ん!」
「え。ぁ、……はい」
最初の言葉が「ん!」だった。
あまりに仏頂面で、ただ自然な行為に小松も受け取ってしまった。
受け取らなかったらヤバいとかではなく。
ただ、普通に受け取ってしまっただけな訳だ。
「じゃあな」
「ぇ、あ、……はい?」
唐突な行為の後に、何事もなかったかのように彼は、立ち去ってしまった。
名前は知っている。顔も知っていた。
学校内の悪い噂も、評判も耳にしている。
彼の名前も知っていた。
彼の名前は、磯部リョーマ。
悪名高い不良である。それ故に、学校でも腫物のような扱いだ。
教師も、生徒も避けて通る。
そして、小松も同様に避けて通った。
決して、交わらないはずの2人。
磯部リョーマ本人が小松に声をかけ。
あろうことか。バレンタインデーに金平糖を小松に手渡した。
じゃりじゃり。
「金平糖 、どうしたの?」
幼馴染の船橋洸 が小松の食べる金平糖を指差した。
「貰ったんだよ」
「金平糖を?」
「うん。そう」
「ぇ、ええ?? ひょっとしてバレンタインデーにですかぁ!?」
大袈裟に叫ぶ洸に小松も素直に頷く。
「うん。まぁ、そうだよ」
「どのクラスの女だよ! なぁ! おいおいおい!!」
「あははぁ~~」
グイグイとくる洸に小松もタジタジになってしまう。
(これで、彼の名前を言ったらどんな反応をするんだろうなぁ)
額を描く仕草をする小松に「え。なんで困ったって仕草すんの?」彼の癖である行為に、洸も首を傾げて聞き返した。それに額を掻く仕草も止まり、ゆっくりと指を離した。
「女の子じゃ、ないんだよね」
「はぁ?」
濁した言い方をする小松に洸も目を細めた。
「男からってか?」
「うん。そうなんだよね」
洸は金平糖へと視線をやる。
「へぇ。あ。金平糖、オレにもくれよ」
「いいよ」
手を差し出す彼の掌にざら、っと金平糖の小さな粒を流した。
昔ながらの小さな金平糖が色とりどりに蛍光灯の下で光る。
「お。サンキュ!」
掌の金平糖を、大きく開けた口の中へと一気に放り込む。
じゃりじゃり。
「やっぱり。金平糖は、このサイズが一番、食べやすくていいな!」
ごっくん、と飲み込んで洸は小松にほくそくむ。
「うん。そうだね、大きいのだと金平糖って感じしないもんね」
じゃりじゃり。
「それで? この金平糖はどこのどなた様から貰ったっての? 小松の旦那さんよぉう」
ごっくん。
「磯部リョーマ君からだよ」
思いもしない名前に洸の目が見る見ると大きくなっていくのが分かる。
青ざめていく様子もだ。
「はいぃい?」
その反応に小松も納得がいくものだった。
小松自身も、その状態だからだ。
「まぁ、そんな反応になるよね」
「な、なるも何も! ぅわぁー~~食っちまったよぉう~~ヤベー~~っ!」
「ヤバくはないでしょう。ヤバくは」
「ぉ、お前にやったのにオレが食ったって知られたらどんな目に遭うか堪ったもんじゃねぇの!」
「ああ。そっちね」
額を掻いて苦笑を小松も浮かべた。
ザラザラ。
じゃりじゃり。
「あ。まだ金平糖、食べる?」
「要らねぇよ! 馬鹿野郎っ!」
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