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第3話

   ドアを開けた先には、誰もいなかった。  入口から顔を出すと、巡が家の壁に寄りかかって立っていた。 「出てくんの早すぎ」  柔らかい微笑みが、俺の心をざわつかせる。その暖かな笑顔だけで、冬の寒さが和らいだ気がした。 「だって土産って、頼んでたやつだろ」  巡が家族で旅行へ出かける前に、その観光地の有名なお菓子をねだっていたのだった。 「ほんと図々しいよなあ。リクエストしてくるなんて洋くらいだよ」  そう言って巡は紙袋を差し出してきた。受け取ろうと手を伸ばすと、指先がこつんと触れ合う。また心臓が跳ねた。  怪しまれない程度に、触れ合った指先をそっとなぞる。 「手、冷たくね」 「ん?ああ、手袋忘れてカチカチに冷えた」 「うち上がってけば?せっかく来たんだし」 「いいの?洋の母さんに何か言われない?」  俺はこくんとうなずいた。ドアを抑えたまま、巡が入れるだけのスペースを空ける。巡は寒さで色の薄くなった唇をほころばせた。乾燥したのかひび割れそうな唇を、赤い舌先がゆっくりと湿らす。  どきっとして、とっさに視線をそらした。 「おじゃましまーす」  巡が脇をすり抜けると、長身を折り曲げてスニーカーを脱ぎ始める。背の順では真ん中らへんにいる俺と、一番後ろにいる巡。学校では振り向かないと視界に入らないこの差を、いつももどかしく思っていた。  何度も家に遊びに来ている巡は、中の配置をよく知っていた。まっすぐに俺の部屋に向かう巡の後ろを、俺は黙ってついていく。 「そういや、あの勝負どうなったの?」  部屋のドアを閉めると、巡が聞いてきた。いつもはすっと切れ長の瞳が、好奇心をたたえるように丸く見開かれている。血色を取り戻しつつあるピンク色の口元は、楽し気にゆがんでいた。  洋は、巡に兄との一件を話していたので、そのことを聞いてきているのだとすぐにわかった。 「どうも何も。彼女なんかできるわけねえだろ」  わざとらしくすねてみせる。巡は一瞬黙った後、すぐにははっと快活に笑った。校則違反すれすれの長さの黒髪がふわりと揺れる。  どうしようもなく切なくなって、まともに巡の顔を見ていられなくなった。  

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