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第66話

それから静かに時は過ぎていった。 俺たちのことを心配してくれていた店のスタッフ達や会社には報告して皆が知る関係となった。 嫌な顔する人はほとんどいなくて本当に環境に恵まれていたのだと再確認した。 お客さんにはわざわざ俺たちの関係を宣言することはないけど日々充実した時を過ごせるようになった。 残る問題はうちの母親のこと。 誰よりも俺の子供を胸に抱くことを願っていたがそれは叶えられない。 母は厳しくもあったが朗らかで優しい人でもあった。母の愛情を鬱陶しく思ったことはあるが愛されていないと思ったことは一度もなかった。 だからいつか俺たちのことが理解されたらいいとは思う。 けどそれが簡単ではないこともまた事実で… あれから時はたったが父からは連絡は来ても母からはなにもない。 このまま会えることはないのだろうか… 店長との交際が始まり気付けば数年経過していた。 過去の交際が嘘みたいに順調で幸せで…幸せすぎて怖いと思ったことも一度や二度ではない。けれど変わらず真っ直ぐ俺だけを見つめてくれる藍玉さんのお陰で俺は本来の自分を思い出した気がするのだ。 喧嘩して擦れ違って何度か危機もあったけれどそれでもいつも藍玉さんが歩み寄ってくれた。 あなたのお陰で俺は過去の自分とサヨナラできたと思う。 あなたがいなければ今の俺はないしこうして藍玉さんの隣に立つことさえ諦めていたんだ。 ねぇ。藍玉さん。俺ね。本当に幸せなんだ。過去の自分が全く顔を出さないかって問われると正直自信はないよ。けどそれでもあなたが大丈夫って言ってくれるから…俺は生きていけるんだ。 「竜胆。行くぞ」 そうやって俺に笑顔で手を伸ばしてくれる。髪を撫でてくれる。抱きしめてくれる… 「はいっ!」 過去を振り返ったりしない。弱い自分にはサヨナラする。一人ではできなかったししなかった。けど彼とならそれができる。そう確信できるから。 自分の意見なんて言わないで諦めて仕方ないって逃げ出して…自分から悲劇のヒロインになりたがってた過去に俺は別れを告げるんだ。 そして彼とともに前へ前へ進む。 バイバイ fine.

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