2 / 131

第2話

朝の食堂は寮生の大半が使用するため、ガヤガヤと騒がして狭苦しい。 中学からこの寮で生活して既に6年目に入り慣れたものだが、基本的に静かな空間を好む龍樹は、やはりこのむせ返るような人の波が苦手だった。 ごく簡単なものなら自分で作れなくもないし、自炊も許可されているが、毎朝自分のためだけに用意するのは些か面倒で。 学食嫌いの双子の兄が毎日せっせと自炊しているのをたかりに行くこともあれど、眉間に皺を寄せながら食堂に来ることも多かった。 食券機の行列に目を向けると、この人混みの中でも一目でわかるその後姿が目に付いた。 丁度いい。 「…はよ」 ぽん、と自分より少しだけ高い位置にある肩を叩くと、その人は金髪とも茶髪とも取れる明るい髪をふわりと揺らして振り返った。 「おはよう」 耳に心地良いテノールを聞き流し、するりとその隣に身を滑り込ませる。 律儀に行列に並ぶのは出来れば遠慮したい。 一緒に食べる為に待ち合わせをしていたことにしてしまえばいい、と龍樹は素知らぬ顔をして後ろに並んでいた生徒に会釈した。 「あれ、今僕横入りのダシにされた?」 「うるさいわざわざ声に出すな」 透き通った青い瞳にまるで作り物のような美しい顔。 学内では『天使様』などというふざけた渾名で通るこの男は、時々わざと余計なことを言う。 しかしその渾名は強ち嘘ではないほどに美しいお人に文句を言う者も極僅かで。 (そりゃこれだけ顔もスタイルも良くて、学年どころか全国でも片手で足りる頭のαなんて、次元が違い過ぎて誰も文句言う気にならねぇよな) 今だって、空席を探して少しウロウロしただけで女子生徒が声をかけてくれたところだ。 真っ赤になってここどうぞ、なんて。 ありがと、と軽い調子で返す優美な微笑は最高のご褒美だ。

ともだちにシェアしよう!