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第4話
龍樹は昔から大人しい子どもで、とにかく本ばかり読んでいた。
それは成長してからも変わることはなく、有数の進学校であるこの学校の広い図書室は大のお気に入りだ。
特に窓際の一番手前の席は学校が仕入れたばかりの新書コーナーが近く、龍樹はいつも真っ直ぐにそこに向かう。
(…あれ、)
いつもはほとんど人がいない放課後の図書室だが、今日は珍しくその席に先客がいた。
別に名前が書いてあるわけでもないのに、そこは俺の席だと声をかけるほど龍樹は血の気がある人間じゃない。
先客がいたら別の席に座ればいいだけの話だ。
しかしその先客を龍樹は知っていた。
そしてできれば、関わりたくない部類の知り合いで。
「あ、」
気付かれなかったらそのまま立ち去ろうと思ったが、ドアを開ける音に反応したその男はしっかりと自分を見た。
ざわりと何かが背筋を走った気がして、半ば反射的に踵を返した。
「待って……っわ!」
ガタンッ!ドタンッ!
「………え?」
そのまま走り出そうと踏み出したが、予想外の鈍い音に龍樹は思わず振り返った。
目の前の光景が俄かに信じ難くて、思いっきり顔を顰めてしまったのは致し方ない。
男が座っていた筈の椅子は無残に転がり。
テーブルは定位置から盛大にずれ。
まるで古いコントのように人が倒れている。
---目を離した一瞬で何が起きた。
「…大丈夫ですか?落合先生」
死んだのかと思うほどに微動だにしなかったそれは、龍樹の言葉を聞いたその瞬間に勢いよくガバッと顔を上げた。
転んだ拍子に打つけたのか鼻の頭と額が赤くなっている。
なんとも間抜けな顔に痛みからくる生理的な涙がじわじわと浮かんでくるのを、心底呆れて見ていた。
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