6 / 131

第6話

龍樹は自分の迂闊さを呪った。 落合と再会した図書室に、昨日の今日で来るなんて。 でもまさか新学期早々の忙しい時期…それも新任の教師が放課後一番にこんな人気のない図書室にいるだなんて思わなかったのだ。 「たちばなくん!よかった、ここならもしかしたら会えるかもって思ったんだ」 落合が満面の笑みを浮かべるのと引き換えに、龍樹の顔はどんどん引き攣っていく。 落合は今度は転ぶことなく、龍樹の前に歩み寄ってきた。 近くで見ると随分と小柄だ。 特別背が高いわけではない龍樹と並んでも、軽く10cm以上差がありそうだった。 「昨日、図書室に用事があったんでしょ?ごめんね、俺邪魔しちゃって…あ、これ、一昨日ぶつかった時に橘くんが置いていったゼリーね。ちゃんと昨日は部屋の冷蔵庫に入れてあったし、今日も職員室の冷蔵庫借りて…」 矢継ぎ早にそう言った落合はそこで言葉に詰まった。 ほんのり頬を染めた落合は目を合わせようとしない。昨日も一昨日もこちらが引くほど一直線だったのに、この差はなんなのか。龍樹は若干の混乱を覚えた。 「なんでかな、早くこれ返さなきゃって…」 消え入りそうな声でそう言った落合は、きっと嘘は言っていない。というより、この人は嘘が吐けない人種だと龍樹は悟った。 「………運命だから?」 落合がゆっくりと顔を上げる。 もともと大きな瞳を溢れんばかりに見開いて、真っ直ぐ龍樹を射抜いた。そしてまた、ざわりと背筋に何かが走る。 (ああしまった、こんなこと聞くつもりじゃなかった) 「運命、だから」 運命の番というものが何を意味するのか、もちろん龍樹だって知っている。 あらゆる面で優れているとされ、成功を約束されたα。 人口の大多数を占めるβ。 男女共に子を成し、差別の対象に見なされるΩ。 Ωは定期的に迎える発情期でαを誘い、優秀な遺伝子を遺そうとする。 発情期中の性行為でαがΩの項を噛むことで成立する番という関係性は、昔と違い今でこそ互いに愛し合う2人の合意の上というのが基本的に大前提だ。 だが、運命の番は違う。 互いの持つフェロモンに強烈に惹かれ合い、ただただ求め合う。そこに本人たちの意思も愛もない。 本能だ。 「………就任早々問題起こしたくなかったら、そういうこと言わない方がいいですよ」

ともだちにシェアしよう!