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第7話

「運命の番って信じるか?」 自分とよく似た兄は、弁当の卵焼きを口に入れようと口を開けたまま停止した。そして程なくして、卵焼きを弁当箱に戻し箸を置いて。 「…龍樹、本を読むのはいいことだと思うけどね?本と現実の区別はつけようか」 「おい」 「この歳になって中2病なんてお兄ちゃん悲しいよ」 はああ、と大袈裟に溜息を吐く兄、水樹の頭を遠慮なく叩くのはいつものこと。春の穏やかな中庭に似つかわしくないバシッという小気味良い音が響く。 こいつに聞いたのが間違いだった。 かと言って水無瀬に聞いたって似たような答が返ってくるに決まっているし、他に気軽に話せるαやΩの友人などいない。 特進科にはαが多く在籍しているが、皆ライバル意識なのか友人と呼べるような間柄ではなかった。 「…運命なんてないよ」 不意に真面目な声で水樹は言った。 「運命なんて、ない」 水樹は自分に言い聞かせるように、言葉を重ねる。口元は弧を描いているものの、その瞳は暗い。 「…ウィンナーもらい」 「あっ!ちょっと!」 水樹の泣き顔はもう見飽きた。 泣き笑いも散々見た。 今ある穏やかな顔を曇らせるくらいなら、自分の悩みなど墓までだって持って行くつもりだ。 水樹とは双子だ。 双子と言っても二卵性の双子だが。 それでも幼い頃は本当によく似ていたが今では2人を間違える人もほとんどいない。当たり前だ、種が違うのだから身体的特徴が違う。 水樹はΩ性だ。 Ωは発育が悪く、αやβに比べて身体が小さく力が弱い傾向にある。 水樹も例に漏れず早い段階で成長が止まり、その後も変わらず成長した龍樹とは身長差も出来たし顔付きも幼いままだった。 口だけは達者に成長したが。 世間はΩを劣性だと言うが、生まれた時から一緒にいるこの兄を見てきたせいかそんなことを思ったことがなかった。 勉強が好きではないようだがその割に成績はいいし、運動神経に至っては龍樹よりずっといい。コミュニケーション能力も高く要領もいい。 要は種がどうのではなくやはり本人次第なのだと思う。

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