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第8話

それでもΩ故の苦難は多く、理不尽な暴力に泣かされることが度々あった。 水無瀬と番になったのだって、半ば事故だった。 その時のことを思い出すと今でも悔やまれる。当時の水樹は本当にひどかった。 (…あの人も) 不意に落合の顔が浮かぶ。 (あの小さな身体で、耐えてきたのだろうか) 自分を真っ直ぐ見つめてきたあの黒目がちな大きな瞳は、すぐに涙が溢れてしまいそうで。 都市伝説とまで言われている運命の番に縋るなんて、何も知らない純粋培養のような人なのか、それとも。 (それに縋るしか、ないのか) 忘れたい。 関わりたくない。 確かにそう思っているのに、落合の満面の笑みが浮かんでは消え、また浮かぶ。 「楽しそうだね?」 「ぅあっつい!?」 少々自分の世界に浸っていた龍樹は水樹の悲鳴で意識を戻した。 水樹の背後には、自販機でよく売っているお汁粉の缶を持った水無瀬の姿。 水無瀬は結構な甘党で、お汁粉は最近のお気に入りらしかった。 天使の様な容貌で何でも卒なく熟す水無瀬だが、味覚だけはドン引きレベルのバカだった。 それももう慣れたが。 「またお汁粉?飽きないねぇ」 「美味しいよ?勉強で疲れた頭に甘いもの。で、何の話?」 「水無瀬は365日24時間甘いものじゃん…龍樹が遅い中2病疑惑でお兄ちゃんは悲しいって話」 「おい」 「なにそれ」 こうなると口下手な龍樹には手も足も出ない。 「運命の番?龍樹、本読みすぎだよ」 「ねー」 ほらやっぱり。 仲良くやってるとは言え、不本意で番になったこの2人が運命など信じるはずもない。わかっていたことだ。 それにしたって同じ反応を返すことないじゃないか。 似た者同士め。 龍樹は揶揄われた居心地の悪さから頬杖をついて口元を覆い、顔を背けた。 若干の胸の痛みは気付かなかったことにした。

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