12 / 131
第12話
新任とはいえ自分は教職員だ。
当然事前にどの辺りにどの教室、準備室、ときちんと案内は受けている。
もう授業だって始まっているのだから実際にこの校舎の行き来は何度もしているのだ。
おまけにこの学校はそんなに馬鹿でかい校舎ではないし、複雑な作りでもない。
「あ、の…」
どうしよう。
どうしよう。
教師が特定の生徒を探しているのに、探している生徒のクラスがわからないなんて、どう考えても不自然だ。
さらに言えば彼が在籍しているはずの特進科は1学年1クラスしかないから、クラスどころか学年もわからないのがバレてしまった。
つまり、教師としての用事ではなくて、個人的な用事だということもバレてしまう。
彼とよく似た容貌でじっと見つめられると、どうしていいかわからなくなる。
似ているとはいえ本人ではないのにこれなら、実際に見つめられたら気絶するかもしれない。
あ、でも、気絶するなんてもったいない。
射抜くような水樹の視線から目を反らすことができない。
どうでもいい妄想とも言える思考だけはよく働く。肝心の場を取り繕う言葉は何一つ出てこないのに、だ。
緊張感が落合の思考回路を現実逃避のように他所へ飛ばしてしまっていた。
水樹の視線が落合の目からゆっくりと下りた。
その視線はがっしり摑まれた手首を一瞥して、そして、
にぱっ
効果音が付きそうなほど、いい笑顔を作った。
え、かわいい。
ぽかんと開いてしまった口から思わずそんな感想が溢れてしまわなかっただけ褒めて欲しい。
「やだなー先生ってば方向音痴?地図とか読めない人ですか?」
「あ、う、うん!俺すっごい方向音痴!」
「こんなちっちゃい校舎で迷ってたら普段大変じゃないですかー!」
え、かわいい。
この子かわいい。
たつきくんもこんな風に笑うのかな。
ともだちにシェアしよう!