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第13話
水樹の顔を見ていると、龍樹の顔が浮かんで仕方ない。笑顔なんて見せてくれたことはないが、これだけ似ているのだ、きっとこんな感じで笑うに違いない。
落合はけらけらと朗らかに笑う水樹の向こうに龍樹を見て、ほんのり頬を染めた。
どうやら不自然な質問をただの方向音痴で処理してくれたようだ。
実際は方向音痴などではないし、地図も読める。
知らない土地で迷った経験もないが、この際この勘違いをありがたく利用させていただくことにして、落合は嘘を吐いてしまう後ろめたさに目を瞑った。
「口頭で平気ですか?一緒に行きます?」
「大丈夫…だと思う…」
「ほんとー?ていうか放送なりなんなりして龍樹に来させればいいのに」
しかも優しい。
そんな風に優しくされたら嘘を吐いている事実に良心が痛む。が、いいから早く教えて欲しいなんて勝手なことも思っている。
水樹の笑顔が余りに無邪気で眩しいから、落合は自分がものすごく身勝手で汚い大人に感じてしまうのだった。
水樹は落合に掴まれたままだった左腕をそっと持ち上げて、すぐ目の前にある階段ではなく離れた位置にある階段を指した。
その動作で結構な力で掴んでしまっていた腕がするりと自然な流れで解け、落合は不躾に拘束してしまったことを謝りそびれた。
「今いるの西棟だから校舎は動かなくて平気。そこの階段より向こうの階段使った方が4階まで上がれば目の前だから迷わないと思いますよ」
水樹は再び落合に向き合うとニコッと笑った。
ぱあああっと落合の周囲に花が舞う。
これで会いに行ける。
西棟は高校の校舎で、1階に準備室等があり、2階から順に学年が上がっていく。つまり4階は3年生だ。
「ありがとう!えっと…」
「水樹です。橘 水樹」
「ありがとうみずきくん!」
この時、たちばなってどういう字を書くの?と聞いておけばよかったと後で後悔するのだが。
「先生」
そのまま立ち去ろうとした落合は、かけられた声に振り向いて、硬直した。
「会いに行くのはいいけど、あんまり龍樹に悪影響与えないようにしてくださいね」
つい今の今まで明るい笑顔を見せてくれていた子と、本当に同一人物なのかと。
そう思ってしまう程に、温度のない笑顔と冷えた瞳をした水樹がいたからだ。
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