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第14話
放課後の帰り道。
龍樹はこの時間が好きだった。
水無瀬と2人きりになれるから。
普通科の水樹は自分達よりも授業が少ない上に、部活がある。
水樹を邪魔だなんて思ったことはただの一度もないが、それでもやっぱり本音を言えば水無瀬との二人の時間が好きだった。
「ーーで、そのあとね、」
水無瀬は割とよくしゃべる。
龍樹はあまり口数が多い方ではないので専ら聞く側だが、水無瀬が心地良いテノールを響かせて取り留めもない話をするのを、その美しい横顔を好きなだけ眺めるいい口実とさえ思っていた。
龍樹も水無瀬も寮住まいなので、教室から部屋までは10分もない。
もっと遠かったら良かったと、何度思ったことだろう。
「…龍樹、聞いてないでしょ」
「ん、あ、うん聞いてなかった」
「もー」
嘘だ。
本当は聞いていた。
口では文句を言いながら、また1から話してくれるのを知っている。
聞いていなかったと言えば、そのきれいな声をまたたくさん聞くことが出来るから、度々こういう嘘をつく。
(…我ながら女々しいよな)
水無瀬と水樹が番ってからは、こうして一緒に帰ることも減った。
寂しいとは思う。
思うけれど、番の2人が一緒にいることは自然なことで、そこに自分が入ることこそが不自然というものだ。
Ωという差別対象である水樹は、タチの悪い輩に捕まりやすい。
まだαもβもΩも関係なかった幼い頃は、人見知りで内弁慶な龍樹よりも活発で明るい水樹の方が老若男女に受け入れられた。
よく公園などでなかなか輪に入れない龍樹の手を引いてくれたものだった。
それが龍樹たちが9歳の時、通常より早い段階で水樹がΩと判明し、続け様に龍樹はαであることがわかった。
それからだ。
その事件以来、掌を返したようにチヤホヤされるようになった龍樹とは裏腹に、父から自衛のために首輪を付けさせられていた水樹はどこに行っても一目でΩと分かるため非難の視線を浴びるようになった。
元々そういう輩を遠ざける為に、水樹がΩとわかった時から龍樹は水樹を1人にしたがらなかった。
αの龍樹が側に張り付いているだけで、随分と効果があったのだ。
それを水無瀬に託したことで、水無瀬も水樹も同時に離れていったような気がして、暫く抜け殻のようだったのだけど。
(俺が一番我儘だ)
龍樹は隣の水無瀬に気付かれないように浅い溜息をひとつ吐いて、あっという間に着いてしまった寮の門に足を踏み入れた。
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