15 / 131

第15話

寮の入り口に見えた人影に、足が止まる。 落合だった。 初めて会ったとき、華奢だとは思ったが、遠目に見ると華奢というよりは寧ろ小さい。 その小さな身体には不釣り合いな大きいビジネスバッグは、荷物がパンパンに入れられているのか少し形を歪にしていた。 誰かと待ち合わせかもしれない。 誰かに会いたくて待っているのかもしれない。 授業が始まってからは一度も会っていないし、全く接点のない先生だ。 たとえ待ち人がいるとしても、まさか自分である訳がない。 そう思うのに、思いたいのに、龍樹はどこかで確信があった。 ーーー自分だ、と。 「龍樹?どうかしたの?」 突如足を止めた龍樹に、水無瀬が声をかけるも。 龍樹は少し先にいる落合から目を離せなかった。 今の今まで、水無瀬との貴重な2人での時間を堪能していたというのに。大好きなテノールもどこか遠くから聞いたような、不思議な感覚がした。 「…悪い水無瀬、ちょっと用事思い出した」 「えー?珍しいね、龍樹がなんて」 「先帰って」 「うん、わかった」 また明日ね、と。 水無瀬は別段不審に思った様子もなくあっさりとそのまま寮へ入っていった。 水無瀬が寮に入る際に落合とすれ違い、落合がぎょっとして水無瀬を二度見して。それを見て、ああやっぱりあいつ誰が見てもビックリするくらい綺麗だよなとぼんやり考える。 そのまま落合が周りを見渡した。 恐らく、何の気なしに。 そして龍樹と目が合ったその瞬間。 時が止まったように感じた。 ほら、思った通り。 あの人が待っていたのは自分だった。

ともだちにシェアしよう!