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第16話
自分がわからない、なんて思ったのは初めてのことだった。
「…たつきくん、ここって」
「第3図書室」
日もあまり入らない古びた図書室には古書独特の香りが部屋に充満している。
中学校舎には中学生向けの第1図書室。
高校校舎には高校生向けの第2図書室があり、寮の近くにあるこの第3図書室はほとんど利用者がいない。
いったい誰が何のために用意して図書室まで作ったのか、非常にマニアックで難解な専門書などがぎっしり納められている。
なので国立大や海外の大学など、ハイレベルな大学を志望する高校3年生が追い込みの時期に駆け込んでくることが稀にあるくらいだ。
新年度が始まったばかりの今は、こんな寂れた場所に来るものはいない。
龍樹は誰にも邪魔をされずに1人になりたい時、よくここに来ていた。
寮の入り口で落合と会った龍樹は、何か言いたげな落合の手を取ってここに連れてきた。
どんどん人気のない場所になっていく中、2人は一言も口をきかなかった。
掴んだ手には少しも力を込めなかったので、逃げようと思えば逃げられたはずだし、逃げるなら逃げればいいと思っていた。
むしろ逃げて欲しいとさえ思っていた。
しかし、落合は抵抗の口振りも素振りも一切見せなかった。
水樹にも水無瀬にも知らせていない、知り合いどころか誰も来ない自分だけの空間に、なぜ彼を連れてきたのか。
龍樹本人が聞きたいくらいだった。
(あんな人の多い場所でまた運命だ何だって言われたら、俺もこの人も困るからだ)
そう自分に言い訳するしかなかった。
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