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第17話
ガラガラ、と図書室の引き戸を閉める音と同時に掴んでいた手を離す。
手の中にあった温もりが消えた。
(俺より体温高いのか)
真冬でも手足が温かく、冷えとは無縁な自分。いつも温める側だった。
「たつきくん」
「なんで」
どこか熱っぽい落合の目を見ることができない。
縋るような声を遮って、龍樹は落合に背を向けたまま常より低い声を出した。
「なんで名前知ってんですか」
「それは、さっき」
「なんであんなとこで」
「たつきくん」
「呼ぶな!」
突然大声を出した龍樹に、落合はビクリと身体を跳ねさせた。
なんでなんでなんで。
まるで小さな子どものよう。
頭ではそう思うのに、みっともないと思うのに、勝手に言葉が出てくる。
身体がまるでいうことをきかない。
どう考えても自分よりも脆弱なこの人が、怖かった。
自分を根刮ぎひっくり返されているようで、怖かった。
「…たつきくん」
離れていった落合の温かい手が、再び龍樹の手に触れた。
まだ少し肌寒いこの時期の夕方は、寒さに強くとも少し冷える。
落合が触れたところから、じんわりと優しい温もりが広がっていった。
龍樹はその温かい手を素早く掴み、
ガンッ!
落合の背にあった古びた本棚に縫い留めた。
「…先生Ωでしょう」
吐息さえ感じられそうな距離で、静かな声で問うと、落合は僅かに顔を引き攣らせた。
言葉は疑問系だが、実際は確信だった。
龍樹はαだ。
Ωの匂いには敏感だし、落合からは常に甘く優しい匂いが僅かに漂っていた。
間違えようがない。
「こんな人気の無い場所にのこのこ付いてきて、ちょっと危機感が無さすぎるんじゃないですか」
「た、つきく…」
「呼ぶなって言ってる」
グッと押さえつけた手に少し力を込めれば、落合の顔が痛みに歪んだ。
………ほらやっぱり。
自分よりもずっと脆弱だ。
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