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エピローグ2

 先ほど、遊園地のことを思い出した時に、ふと思いついたことがあった。 「明日、暇って言ってたじゃん。遊園地行かない? 二人で」 「へ?」 「で、デートしよ、ってことなんだけど」  こちらを見て目を瞬かせる鉄生に、俺はごく自然に見えるよう、にっこりと微笑み返す。が、実のところは緊張でヒヤヒヤものだった。  なにせ、こんな“デートにしか見えないデート”に誘ったのは初めてのことだったからだ。  一緒に飯。買い物。ゲーセン。映画。家でゲーム。今まで俺は、以上のような別に友達同士で行ってもおかしくないようなデート、言い換えれば断られようも無いようなデートに鉄生を誘い続けてきた。何故なら断られるのが怖かったから。しかし今日この瞬間、俺は勇気を出して次のステップに踏み出したのだ。目指せ! ラブホテル!! 「おお? う~ん、どーすっかなぁ……そりゃ確かに予定空いてるっちゃ空いてるんだが……」  鉄生は少し驚いて見せた後、いつものように腕を組んで首をかしげ、ちょっと考え込むようなそぶりを見せる。 「え、だ、駄目かなぁ」 「駄目っつーか何つーか、男二人で行くようなモンかぁ? それ」 「ああ、それなら意外と大丈夫だよ。っていうか男一人でも案外いけたし……キャストの人からキモがられるかと思いきや、その道で有名な遊園地マニアのユーチューバーと間違われたりして楽しかったよ。人違いって分かってからも割とあったかい感じの対応だったし」 「いや、何のエピソードだよそれは」  いつになく冷ややかな鉄生の視線が俺の心に突き刺さる。彼を安心させるために披露したトークは、見事に裏目に出たようだった。  これは断られるパターンだな、と俺が諦めかかったその時のことである。 「いいぜ。行こーぜ、遊園地」  鉄生の口から軽い調子で了承の意が告げられた。 「え、いいの?」  彼からにべも無く誘いを断られた後、自宅に帰って今日の自分の言動等を思い出し電気の付いていない部屋で一人のたうち回る所までを想定していた俺は、このあっさり頂いたOKにやや肩透かしをくらったような気分になった。 「ああ。ただしオレ、ジェットコースターにゃ乗らないぜ。実は苦手なんだよな、あーゆーの」  鉄生は若干照れながらも、後ろめたそうな態度で頬をかく。そして、俺に向かってぐっと顔を近づけると、わざとらしくどすを効かせた声で短く言い含めた。 「誰にも言うなよ」  ――鉄生のこういう照れ屋な所がとっても可愛いと俺は思う。 「うん。言わない。だって、俺も絶叫マシーン苦手だもん」 「大の男に向かって可愛いって何だコラ」  あれ? もしかして、また俺……と口元にやりかけた手を鉄生に掴まれる。次の瞬間、俺は鉄生と唇を重ねていた。  昼の日中の大学構内、それも立ち入り自由の屋上テラスというシチュエーションに、かっと体が熱を帯びる。  触れるだけのキス。しかし、それは冬休みに幾度となく交わしたどんなキスよりも刺激的だった。  まるで名残を惜しむように、ゆっくりと唇が離される。鉄生の顔は、まるで茹だったように真っ赤だった。 「愛してるぜ、洋介」 「俺も、愛してる」  そう言った俺の顔も、彼に負けないくらい真っ赤だったことだろう。  ふと、淡いメロンソーダの匂いが鼻先を掠め、やがて散り散りに消えていった。きっとそれは、鉄生がさっき飲んでいたものの残り香だ。タダの残り香。  何故なら俺は今、恐怖など欠片だって感じてはいないから。  ――人生ってホントわけ分かんない。でも、明日がきっと楽しい一日になるに違いないってことくらいは、今の俺にだって分かるのだ。 〈終わり〉

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