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政略結婚

 「お帰りなさい、秋ちゃん!あなたの結婚相手が決まったわよ」    養親から大事な話があると言われ、半年振りに里帰りしたら満面の笑みでそう切り出された。  「け、っこん…」  「そうだ。しかもお相手はあの、中条家の次男だぞ!やったな、秋」  「立派なアルファ様よ!これで秋ちゃんも幸せになれるわね」  「は、はぁ…、はい」  喜ぶ養親を後目に、僕はいよいよ身売りされるのか、と目の前が真っ暗になった。  12歳の時にオメガ養護施設から、立花家に引き取られ今年で10年。養親はとてもいい人達で、僕を本当の息子のように可愛がってくれた。オメガである僕の人権を無視する様な事も無かった。少なくとも今までは…。  半年前、正月休みに帰省した時に養父の会社の窮状を聞かされた。そこそこ大手の製薬会社を経営する養父は、昨年開発した新薬に危険な副作用が存在する事を発見した。既に発売直前で広告やら販売ルートやら、相当資金を費やした挙げ句の頓挫だったらしく、会社は大きな損害を出した。それでなくても新薬の開発には莫大な資金がかかる。それは薬科大に通う僕にも充分すぎる程理解できた。つまり養父の会社は現状火の車なのだ。立て直す為には外部からの資金援助が必要だった。    ーーーこれは政略結婚だ。  中条家と言えば、ホテル産業、貿易業、不動産業と、国内だけに留まらず海外にも幾つものグループ会社を持つ名家中の名家。そしてアルファ至上主義の強者だ。  次男とはいえ、そんな家に嫁ぐのか…。結婚とは名ばかりの子作りの道具だろうな。  しかし拒否権はない。いや、寧ろ喜んで然るべきだろう。養親にはこれまで充分に可愛がって貰った。棄児だった僕を、オメガと知った上で引取り慈しんで育ててくれた。恩返しの意味でも、ここは有り難く受け容れよう。  「こんな勿体無い縁談を用意してくれて、ありがとう。父さん母さん」  にっこり笑って本音を飲み込む。大丈夫。こうなったら10人だろうが20人だろうが子供をポコポコ産んでやる。一度腹を括れば、後は与えられた使命を果たすだけだ。切り替えの早さが僕の長所なんだから。

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