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第3話〜遅くなったけど、HAPPY BIRTHDAY!〜【完】
チリン……
「あっ」
石段を登り終えた向こうに、真夏の陽炎が揺れた。
チリン……
鈴の音は陽炎から聞こえた。
地面から湧き上がる熱風を、涼やかな音色が空に吹き飛ばした。
「面様?」
お婿さんの面様だ。
夫婦の面様がひとりだけ。それに面様の行事は冬だけど。
(迷子かな)
「ねぇ」
面様の前にしゃがんで、婿様お面を見上げた。
「俺ん家 来る?」
きっと何かの事情ではぐれてしまったんだ。炎天下に幼い子を放って置く訳にはいかない。
そう思ったら自然と言葉がついて出た。
少し傾いだお面が俺を見つめる。
あぁ、そっか。
面様は喋っちゃいけないんだ。
「ストロベリーのアイスクリームがあるんだ。一緒に食べよ」
差し出した手。
面様が頷いて、きゅっと小さな手が握ってきた。
小さな手だけど、力強い温もりで。
誰かとアイスを食べるの、久し振りだ。
誰かと手を繫ぐのも……
………………チリン
どこかで鈴が鳴った気がした。
涼やかに、澄み渡った音色が空を駈けた。
あぁ、真夏の陽射しが碧く感じたのはきっとこのせいだ。
空は流れている。
白い雲が細く、柔らかに、空の青と混ざって滲んでいた。
透明な風が舞う。
空は流れている。
次の季節に向かって……
『僕はいるよ、真斗』
『ずっと一緒に……ね』
【完】
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