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7日目 side.XXX
変な人だと思ったんだ。
毎日夜中にやってくる新聞配達の爺さんは、俺を見ると一目散に逃げていくのに。その前のお兄さんも、その前のおばちゃんも、俺を見るや否や仕事を放り出してどっかに行っちゃう。
見てると何だか面白くて、たまにちょっと怖がらせてやろうとか思ったりもして。
でもヤナセっておっさんだけが違った。
がっつり怯えてた癖に、逃げずに俺と話してくれた。最初はアパートに住み着く幽霊とか言われて意味わかんねーと思ったけど。ま、前まで運んでた人にそうやって聞いたんだと思えば納得がいくから何でもいいや。
次の日も、ヤナセは同じくらいの時間にやって来た。ホームセンターで購入した頑丈なロープで首を吊ろうとした時だった。
運がいいのか悪いのか、また止められちゃったんだ。
そして次の日。その日は天気が悪くて、あんまり外で死ぬ気分にはなれなかった。
でもそれだとヤナセがつまらないかもって、ちょっと時間がかかったけど演出も完璧な死んだふりを見せてみた。ヤナセは今思い出しても笑えるくらい、見事に引っ掛かってくれたんだ。
びっくりさせて大成功のつもりだったのに、本気で心配してくれるもんだから参っちゃったよ。汗と雨でびしゃびしゃの身体で抱き着いてきちゃってさ。
馬鹿だよな、どうして俺みたいな奴に真正面から向き合おうとするの。いい人すぎてこっちが心配になる。そのうち壺とか買っちゃうんじゃない?って。
だが、次の日は予定外の出来事が起きた。最後についた客が結構やばい奴だったらしい。
大麻とかじゃなくて良かったけど、媚薬仕込まれるなんて久々。
昔から薬全般効きすぎる体質だから困るんだよね、あーいうの。飲めもしない酒飲んで、ありったけの薬食べてたらマジで身体動かなくなるしちょっと焦った。
本当ならヤナセの為に、もっと別の死に方考えてたんだけどな。ギリギリ文字は書けたから、ああするしか無かった。
触れられて不快感が無かったのは、ヤナセが初めてかもしれない。友達もいない、窓際で外を眺めるだけの学生生活を送り、初体験は店の客。
人と触れ合う事自体が嫌いなのかと思っていたけど、相手によるんだなって気付いた。
…俺に選ぶ権利なんて無いのに。
ヤナセと俺は生きてきた世界が違う。
ヤナセは普通に働いている。会社で、パソコンいじって、俺が見た事もない表や図だって一瞬で読み取れてしまうんだろう。そんな人に縋るなんて、相当キてんだなって笑っちゃう。
だから、今度こそ決めたのに。
ヤナセが居ない時を狙って。
それなのに酷いよ、アイツ。まだ俺をこの世界に引き留めようとするなんて。
…もう俺、死ななくてもいいのかな。
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