1 / 9

第1話

「ひまー」 今日もいつも通りあの人にメールを送る。しーさんこと咲坂しおりさん。一つ年上の中性的な見た目の美人だ。 今みたいにアプリなんかはなくてメールもちゃんと届いたのか読んでもらえたのかそれもわからないままただ只管に返事を待つ。 その時間が俺は嫌いじゃなかった。 「お疲れ様。今仕事終わったよ」 相手は恋人でもないただのメル友。けれど特別な人だった 初めての出会いは今でも覚えてるよ。 初めての電話はメル友になってたった数時間後だった。文面もシンプルで読みやすくて苦痛を感じないそんな内容ばかりで…どうしても声が聞きたくなった。あんなに丁寧なメールをくれる人だ。どんな声をしてるんだろうって… 電話で話したときほんわりした話し方と優しさが滲み出てる声。 聞いていて心地が良くて…話している内容は今思えば下らないこと。中身なんて覚えていないほんの些細な会話。 メールの文面からもわかってたけどきっと話すのは苦手な人。 そんな彼が一生懸命話してくれるのが何だか擽ったかった。 気付けば半日彼と話していた。 「俺たち凄くない!?メールのやり取りも含めもう半日喋ってる!!」 「本当だね」 「よかったしーさんで。名残惜しいけどそろそろ寝る?」 本当はまだ話していたい。けれどしーさんの声がだんだんととろんとしてきて眠そうになってきたからこれ以上無理させるのも駄目だなって思ってそう提案した。それなのに… 「寝たくないなぁ…まだ話していたい…」 「え…」 今…何て…凄く甘えた声でそう言われ言葉が出なかった…俺と同じようにまだ話したいと思ってくれたことが嬉しかった。…今隣に彼がいたら抱きしめて…そして…そんな邪な思いを抱いていたら 「とも君っ!ごめんっ!!変なこと言って」 焦ったようにしーさんが言った。 「何それ!?えぇ…えぇ…ちょ…待って…」 違うのに…自分のこの思いに驚いただけなのに。 「切るね!!今日はありがとう!」 「違うっ…」 俺の否定の言葉は彼には届かなかった 「何だよ…これ…」 わからないけど泣けてきた 「やべ…泣くとかガキかよ…」 俺は顔も知らないまだ出会って一日もたっていないしーさんに恋してしまったのだ… けれど…そんなの…俺は…俺は…好きな人を作ってはいけないんだ…だって俺は…けど…しーさんとまた話したい…会ってみたい…泣きそうに呟いた彼が心配だ… 直ぐに折り返すが相手が出ることは無かった。誤解させたままじゃ駄目だ…きっとしーさんのことだ余計なこと考えているに違いない… 焦った俺は急いで家を出た 今思えばそれまでの俺では考えられないほど焦って必死だったんだ

ともだちにシェアしよう!