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第1話
寒くても心温かくなる季節がある。
今日は十二月二十五日。クリスマスだ。街中が様々な灯りで眩しく映り、僕は目を細めた。カップルや子供連れの夫婦がさっきから目の前を通り過ぎる。幼い頃、クリスマスが嫌いだった。両親の仲は冷え切っていたし、もちろんご馳走やプレゼントもない。早く家を出ることばかり考えていた。学校もつまらなかった。大人になったら、という希望も持てず鬱々とした日々を暮らす僕の唯一の希望。それが君だった。君はもしかしたら人生いいことがあるかもしれない、なんて思わせてくれる人だった。底抜けに明るくてみんなの人気者で。根暗な僕にもとても優しくしてくれた。そんな君にさよならも言わず別れたことを今でもとても後悔している。いつか君に逢えたなら……。
そんなことを考えながらふと空を見上げるとふわふわと白い雪が舞っていた。手のひらを広げると落ちてきてするりと溶ける。その様を見ていた時。
「桜。桜だろ?」
突然イヤホンを乱暴に取られて、自分の名を呼ばれたのでびっくりして目を見開いた。
「……翔 ?」
髪は少し長くなって前髪を後ろに上げていた。きちんとしたスーツがコートの中に見てとれて立派なサラリーマンになったのだ、と想像できた。声を出すこともできず見上げていると翔はくしゃっと笑顔になって肩を叩いてきた。
「おまえ、なんで俺に黙っていなくなったんだよ。ずっと気にしてたんだぞ」
「……ごめん、ごめんなさい」
懐かしい声。ずっと気にしていたのは僕だって。思わず涙ぐんだ。
「桜、泣くな、悪い、怒るつもりじゃ」
「ううん、本当にごめん。何も言わずにいなくなって」
口元を抑えてなんとか嗚咽を堪える。ずっと、ずっと逢いたかった人。僕の……。
初めて好きになった人。それが翔だった。
陸上部のエースで、僕はよく走っている君を放課後に窓からよく眺めていた。力強い体躯。日に焼けた肌。風になびく黒髪。飛び散る汗さえ宝石のように見えて、幸せな気分になれた。最初は憧れだった。僕にないものをすべて持っている君を見ることは幸せで……辛くもあった。同じクラスだったけれど君とは一度も話したことはなかった。僕は人を寄せ付けず、いつも一人でいたし、君はいつも人に囲まれて楽しそうだった。家にいることも憂鬱、学校もつまらない。そんな中、君は僕の唯一の望みだった。君を見ていることで、僕は自分をこの世に繋ぎ止めていたのかもしれない。突然、僕のいる方向を見る時はいつも顔を逸らした。君を見ていることを知られたくなかったから。ただ見つめているだけでいい。君はそういう存在だった。
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