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第2話

 ある日、僕も知っている上級生に生徒会室に呼ばれた。品行方正。誰もが憧れる存在。でもその時は何か気に障ることでもしてしまったかな、そんなくらいだった。少し怒られて、それで終わればいいと思っていると。 「君が好きなんだ」  そう言われて突然キスされそうになった。今までそういうことがなかったわけじゃない僕はふいと顔を逸らした。でも彼は諦めなかった。僕の両肩をぐっと握りしめるともう一度キスしようとした。ものすごい力で痛みに顔を顰めながら、仕方ない、もう好きにさせようと思っていた。どうでもよかった。その時だった。 「すみません! ちょっと聞きたいことが」  いきなり入ってきたのは君だった。会長はすごい速さで僕から離れ、慌てて部屋を出ていった。取り残された僕はとても気まずかった。俯いていると君がやってきて肩を掴んだ。 「大丈夫か? 桜」  初めて掛けられた言葉はそれだった。僕の名前を知ってたことに、肩を掴んだ手のひらの優しい温かさに、今まで頑なだった心が一気に溶けていく気がした。 「うん、ありがとう……」  ぎゅっと抱きしめられた。心臓がばくばく鳴っている。ほっとしたのと、びっくりしたのと、いろんな感情がないまぜになって僕は真っ赤になって君にしがみついていた。涙が零れていた。君が震えている僕を落ち着かせようとしてくれたことが嬉しかった。世界の片隅で、いつかその端から落ちてしまいそうな僕を君が引き留めてくれた。それから僕の気持ちはものすごい速さで君に向かって流れていった。  その件以来、僕たちは急速に近づいていった。付き合っている、とか、妙な噂が瞬く間に広まっていったけれど、構わなかった。僕を救い上げてくれた君に懐いてしまうのは当たり前のことだし、君もきっと見ていて頼りない僕を守ってくれていたのだ、と思う。君がいることで僕の見る景色は変わった。モノクロからカラーへ。冬から春へと。笑みを浮かべることができるようになった僕の周りには少しずつ人が集まってきた。僕がすべてを拒絶していただけで、本当は生きることだってそんなに悪くないかもしれない。そう思わせてくれたのだって君だ。毎日が少しずつ楽しくなっていった。こんなに変われることができる。もしこれから何かあったとしても君がいてくれたら、きっと乗り越えていけるだろう。

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